内容説明
今、すべてが生まれ変わりつつあった。若者の目覚め、主婦におとずれた啓示、少女の運命、出口を求める老婆―。日本翻訳大賞受賞『星の時』の著者でありウルフ、カフカ、ジョイスらと並ぶ20世紀の巨匠、死後約40年を経て世界に衝撃を与えた短篇群。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
94
短篇集。29篇もあるが、どの物語もその描写の巧みさに思わず感じ入る。そして一通り読むと著者自身の人生観が読み手の心に絡み付くような感覚に晒された。人として、女として、母として生きる自分の周りにある本質をひたすら探し求める渇望感。彼女には世の中の真と偽を見極める繊細な鋭敏さがある。それゆえ自己の虚構すら誤魔化せず、時には本心をそらした悪心に駆られ、時に宿命からの自由を求め煩悶する。でもその根源には誤魔化しのない執拗な愛を語る強さを感じた。加えて哲学的思索の傍らに垣間見る文章を操る遊び心の軽妙さにも惹かれた。2024/09/07
ヘラジカ
42
正に煌めくような短篇集である。路傍の石のように凡庸な生にも”神性”を見出したリスペクトル、真に偉大な作家であったことが実感できる一冊。「カーニヴァルの残りもの」は別のアンソロジーで既読だったがこれまた何度読んでも良い作品だ。後半よりも前半の分かり易い短篇が好みかな。英語訳には全85篇収録の完全版があるようなので、日本でもいずれ全ての短篇が翻訳されることを願う。2024/06/26
おだまん
8
感性に満ちた美しい表現力を持つ珠玉の短編集。色々なタイプの主人公たちのなかに彼女の人生観を垣間見て、哀しい気持ちにもなる。2024/07/20
ちり
3
“私は愛とは理解の合計だと考えていた。真の愛とは、無理解の合計だということを、私は知らなかった。”2024/07/10
頻子
1
ぎゅあ~あ~何?なんか何?常に何?年表に載らない小さな絶望と人生のどん詰まりを束ねたような本。後半に行くにつれて短篇は幻惑的になっていく。唯一話の筋が読み取れたのはP語。あと、生き物が死ぬ話。動物(とくに家畜)を愛するときの身勝手な愛やわざと妻が着替えているときに扉を開ける夫など細かい嫌なところがじわじわと分かるのでつらみが増していく……。 めんどりのように匿名的。どれかっていうとめんどりの受難だと思う。2024/11/27