内容説明
近所の木に身も世もなく恋をする「五月」、地下鉄駅構内で死神とすれちがう「生きるということ」、他人に見えないバグパイプの楽隊につきまとわれる「スコットランドのラブソング」、恋人がベッドの中で唐突に浮気を告白する「信じてほしい」、クリスマスイブの夜、三人の酔っぱらい女が教会のミサに乱入する「物語の温度」…。重層的な物語に身をゆだね、言葉の戯れを愉しむうちに、思いがけない場所に到達する12の短篇集。
著者等紹介
スミス,アリ[スミス,アリ] [Smith,Ali]
1962年スコットランド・インヴァネス生まれ。現代英語圏を代表する作家のひとりで、短篇の名手としても知られる。ケンブリッジ大学大学院で学ぶ。長篇The Accidental(2005)でウィットブレッド賞、『両方になる』でコスタ賞、ゴールドスミス賞など受賞多数。タイムズ文芸付録によるアンケート「現在最も優れたイギリスとアイルランドの小説家」(2018年)で1位に選ばれた
岸本佐知子[キシモトサチコ]
翻訳家。2007年『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
121
四季四部作で見られた知的で魔法のような自在な文章をこちらでも味わえた。やはり好みの文体。一筋縄ではいかない人生や社会をやや皮肉めいた目線で見つめながらも、その中で藻掻く人たちの繊細で不器用な心に彼女らしい表現で寄り添う感じが良い。狂おしい恋慕が描かれる表題作。木に恋した"わたし"。"わたし"と同棲する"私"は戸惑う。でも木も相手も誰の所有物ではない。ただ寄り添いたい気持ちこそなのだ。人生を巡る古典本の物語、まさに普遍的。自分の存在を自ら思う三人の天国。家への道のりと本の思い出の郷愁。もっと著者を読みたい。2023/05/11
KAZOO
114
四季に関する長編で有名な作家のようですが私は初めてでとっつきやすい短編を読んでみました。訳者は「掃除婦のための手引き書」を訳された岸本佐知子さんなので読みやすい感じがありました。季節に対応した12の短編で、それぞれがかなり特徴があります。「生きるということ」「5月」などは現代の幻想小説といえるのでしょう。私は原書で読んでみたくなりました。2024/03/10
どんぐり
96
アリ・スミスの6冊目。表題作を含めて1月~12月までのひと月を配した全12篇。とはいえ、季節を意識して読むものでもなかった。ストーリーは「えー、なんでこんな話になるんだ」と視点が一転していく奇妙な仕掛けがみられる。アメリカ文学の古典『グレート・ギャッツビー』の本を集める〈普遍的な物語〉。ワタシ、木ニ恋シテシマッタ、ドウショウモナカッタ〈五月〉。夫の恋人との二重生活を送る私の〈信じてほしい〉など。特に〈信じてほしい〉が一番面白かったけど、それ以外は、あまり響く話はなかったな。2024/07/03
ふう
73
12話からなる短編集。不思議な読書体験でした。読んでいけば何か見えてくるかなと思ったのですが、4話目の「五月」のあと、これからどうする?という救いを求めて、岸本さんの後書きを読みました。『アリ・スミスの小説を読むということは、ふつうの小説を読むのとは異なる体験だ。』なるほど、ふつうではないことを楽しむくらいの気持ちで読めばいいのかと、固くなった頭に言い聞かせて先に進みました。不思議で不気味だけど、物語の最後には温かみが残ります。2025/06/29
たま
71
ご高名に惹かれて『冬』を読み始め、すぐにワケ分からなくなって脱落したアリ・スミスさん。短編なら読みやすいかもとこの本を手に取った。12篇の短編で200頁、一つ一つが短く読みやすく、企みと言うか企てと言うかがくっきり解る。ストーリー、プロット、視点、語り、等物語の構成要素と枠そのものに揺さぶりをかける。筒井康隆の昔の小説を連想するが、文章が柔らかく破壊的ではない。楽しいと言う感想を多くお見かけしたが、私は考え過ぎてあまり楽しくはなかった。「天国」が印象に残ったが、これが最も普通の小説に近いからかも知れない。2023/06/29