内容説明
本書は、「生と死が対話する」という構造を持った悲劇の物語である。この物語は「死者」である一人の少年の口から次から次へと語られる。象徴と現実の間で、作者は稀有の想像力を駆使し、叙述の起伏に沿って物語の哲学を構築している。これは単に「エイズ村」の悲劇というだけでなく、中国の大地で生きている八億の農民の共通した戸惑いなのである。1990年代の中国河南省、政府の売血政策で100万人とも言われるHIVの感染者を出した貧農の「エイズ村」を舞台に繰り広げられる、死と狂気と絶望と哄笑の物語。「現代の魯迅」と評される第一級の反体制作家が書下ろし、たちまち15万部を売り切ったスキャンダラスな傑作。
著者等紹介
閻連科[エンレンカ]
1958年、中国河南省嵩県の貧しい農村に生まれる。高校中退で就労、二十歳の時に解放軍に入隊する。在軍中に河南大学と解放軍芸術学院を卒業、2004年に軍を離れ、北京市作家協会に所属して作家活動に専念。1980年代末から小説を発表し、長篇8篇、中篇40篇、短篇60篇を著す。『堅硬如水』で魯迅文学賞を、『受活』で老舎文学賞を受賞。現代中国を代表する反体制派の作家で、ノーベル文学賞に最も近い中国人作家と言われている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
139
貧しい中国の田舎の村。隣町はみんな美味しいものを配給されている。化粧品を持っている。血を売っているんだそうだ。血はとってもまたしばらくすれば元どおり。また売れる。さあ!と多くの者が売った。同じ針の使い回し。蔓延するエイズ。それでも、理を説くものが仕切るあいだは良かった。とにかく、ひとは、死ぬまでは生きているのだと思った。少しずつ弱ろうとも、エネルギーは、死ぬまで湧き続け、それが恐ろしくもあった。読むことでひどく心を消耗した。作者による後書きから、作者自身が命を削る思いで書いた作品なのだと知り、腑に落ちた。2020/01/01
harass
63
『愉悦』につられてこの作家を追う。現代中国で問題になった事件を取材した小説。売血を生業にする村々で熱病といわれる病が流行る。熱病とはエイズであると県は把握していた…… やっかみと恨みから毒をもられてすでに死んでいる少年が語り部だ。この少年が一族の親と祖父が主要な登場人物である。彼らはこの村への加害者でもあり被害者でもある。中国的というか、容赦無い剥き出しの欲望と心情には唖然としてしまう。この作家の他の作品にもあるが強烈なロマンチシズムを感じる。ラテアメ文学好きはぜひこの作家を一読して欲しい。ぜひオススメ。2016/08/27
りつこ
44
凄まじい物語。貧しさから脱却したくて売血した人たちが次々熱病(エイズ)にかかって死んでいく丁庄の村。感染を防ぐために祖父が学校を熱病患者の最後の住処にと解放するが、人のものを盗んだり自分だけが利益を得ようとする者が出て、平和な日々は長く続かない。金儲けしか頭にない父は棺桶や死後の伴侶探し等の商売で財を成し、人の命を省みない。墓を暴いてでも盗もうとする人間の浅ましさと逞しさ。辛い物語だったが熱病患者同士のロマンスに少しだけ救いを感じた。2017/06/14
Maybe 8lue
42
売血で熱病を広めた父のせいで毒死の僕目線から。拡散防止のため学校に病人を収容(祖父の職場)泥棒騒ぎ、父の弟は従弟嫁と賊愛それを理由に祖父は失業。皆は棺桶作りに木を全て伐り材木を無秩序に剥いだ。父はやはり父で配給の棺桶を横流、死人の仲人で大富豪。僕を県長の娘だからと年上の障害者と結婚させようと立派な棺桶で結婚式、「お祖父ちゃん助けて!」予知夢から覚め駆けつけた祖父は状況を把握し後ろから父を撲殺、即死。釈放され戻った祖父の目に映ったのは空っぽの新しい世界の躍動だった。2014/07/19
三柴ゆよし
23
毒殺された少年の一人称による語りは、作者が敬愛するというフアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』のオマージュか。さておき、同じく中国の売血問題を扱った小説には、余華の『許三観売血記』(邦題『血を売る男』)があり、こちらが悲惨さよりも人情味と家族愛にあふれたハートフル売血コメディだったのに対し、本書は閻連科作品のなかでも珍しく、ほとんど救いのない物語である。とはいえ本作をして、中国社会の、ひいては中国人民の無知蒙昧を告発した書物と称されたのでは、閻連科も作家として報われない。虚構には虚構としての独立性が存在する。2017/03/07
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