出版社内容情報
「ここが世界の中心だと言ってくれ。」
ーー理不尽な世界を生きる者たちの、苛立ちと悲しみが、世界を覆い尽くす
増殖する高層ビル群のスラム街〈奇天座〉。究極の幻覚剤〈ロロクリ〉が蔓延し、居住者たちが次々と獣や虫に扮しては、ロロクリの効果に溺れ、人間をやめる快楽を貪っていた。その中でひとり、人間でいつづけようとする西尾は、自分だけの究極の幻を夢みて――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
20
☆☆★ ずっと心待ちにしていた金子薫の新作だったが、正直期待外れ。「成るや成らざるや奇天の蜂」は金子薫らしい秀逸なタイトル。九龍城を思い起こす「奇天座」という複雑な建物の塊の中で、ロロクリという薬物により動物に化す陶酔感に浸る人物達という設定も金子薫らしい。ただこれまでの金子薫の作品は、その奇怪で玄妙な世界観に没入させる筆力があったが、本連作はどうも表層的で、読みながら冷めてしまう自分を感じて、没入できなかった。双子の姉弟の言海と光による「愚天童子と双子の獣たち」「言葉の海から」は駄作。2025/05/23
グラコロ
12
このひとは“双子は〜”“壺中に”“道化〜”と3作を読んで、どこか不穏ながらほんわかした寓話めいたところに魅かれていた。だが今作では作風を変えようとしてるのかな。バロウズの“裸のランチ”もどきみたいなのや劇作みたいなのが入り混じり、殺伐とした終末世界を描く6つの中短編から成り、そのそれぞれがやがて化学反応を起こすのだろうと辛抱強く待ったが、最後まで不発だった。一体どうしちゃったんだろう⋯。2025/07/29
rinakko
9
長篇と思っていたら連作の6篇だった。金子作品を読むときには相応の覚悟をするのだが、今回は他の作品で味わったような辛さも凄みも感じることが殆どなくてむむむ…。最初の「独白する愛の犠牲獣」はよかった(ここからどこまで連れていかれるのだろうと期待した)。2025/06/14
橘
8
何か深いところにありそうだけれどわたしには読み取れず、でも並べられている要素が好みで酩酊感を味わう…という読書でした。久々に金子薫ワールドに揺蕩った。全部バラバラの短編のようだけれど、書き下ろし含めて連作短編かと思いました。最初に収録されてる「独白する愛の犠牲獣」が1番後に書かれたものだとは。この不条理さ好きでした。描写が画として想像しやすいけど、物語を理解するのは容易くないのがいいな。「面白い」「面白くない」はわからず、「好み」としか言えないです。2025/05/11
chuji
3
久喜市立中央図書館の本。2025年4月初版。初出「文藝」2020年冬季号、22年冬季号、23年夏季号、冬季号の四編と書き下ろし二編を加えた六編の単品。金子さんの著作は四冊目の読了です。相変わらずの摩訶不思議ワールドです。2025/05/25