内容説明
結婚記念日に夫から贈られた植木は、「贈り主様にそっくりな『花』」をつける不思議な木―「未の木」。少年は、言葉の力で世界を紡ぐことができた―「ジュヴナイル」。四十年前、現政権が発足した日に大災害が生じたあの地へと、私は帰ってきた、なぜ?―「流下の日」。山腹に生じた緋色の世界に迷いこんだ末に―「緋愁」。“うみの指”に襲われる世界と、私の世界―「鎭子」。“しお”に覆われゆく風景、“しお”に病みゆく身体、“しお”と共存する人々、ささやかな日常から織りなされる歴史―「鹽津城」。日本SF大賞2冠作家・飛浩隆、8年ぶり待望の作品集。
著者等紹介
飛浩隆[トビヒロタカ]
1960年、島根県生まれ。島根大学卒。81年、「ポリフォニック・イリュージョン」で第1回三省堂SFストーリーコンテストに入選、「SFマガジン」に掲載されデビュー。83年から92年にかけて同誌に短編10編を発表。10年の沈黙を経た2002年、『グラン・ヴァカンス 廃園の天使1』を発表、一躍脚光を浴びる。05年、『象られた力』で第26回日本SF大賞、07年、『ラギッド・ガール 廃園の天使2』で第6回Sense of Gender賞大賞、18年、『自生の夢』で第38回日本SF大賞、19年、『零號琴』で第50回星雲賞日本長編部門を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
keroppi
55
交わらない時間と空間が微妙に響き合い不思議な現実感を生んでいく。パラレルワールドと言えばそうなのかもしれないが、そうとも言えない感情が浮き上がる。この感覚は、飛浩隆特有の世界であり、その世界に浸る喜びをおぼえている。2025/04/19
藤月はな(灯れ松明の火)
52
「海の指」と思考がリンクする「鎭子」は、鎭子が生きる為に別の世界(同作者の短編「海の指」の世界)を生み出し、儘ならぬ現実と重ねる様に体中が響き合うような感覚を味わう。また、鎭子の心に抱えている屈託や本音の表現が絶妙なのだ。この言葉たちが表現できなかった自分の中の諦めや燻る怒りへすとんと落ちてきて安心した。特に結婚を勧める母に「うっとうしいに決まっている。私と暮らせば、些細な負担が始末に負えない火山灰のように降り積もる。人生の選択肢をいくつか捨てることになる。こっちだって気が重い」の一文がクリーンヒット!2025/02/10
tosca
27
6篇が収録されている。表題作の読み方は「しおつき」。どれもすんなりとは理解しづらい作品ばかりの中で、一番好きだったのはやはり表題作。著者らしい美しい世界観が堪らない。時代を跨ぎ、異世界が交わり、物語が目の前に勝手に広がる感覚、浮遊感と不安定感はこの著者でしか味わえない。自分にとっては長編だとかなり覚悟して読まなければいけない作家ではあるけれど、短編だと割と気楽にいける2025/03/07
ぐうぐう
27
冒頭に配置された「未の木」は、諸星大二郎を彷彿させる設定で始まる。けれど不穏な、その気持ち悪さは設定だけに留まらない。奇妙なズレ(あるいは奇妙な一致)が、小説ならではの試みとして不穏に、そして気持ち悪くなりながらも、どこか他人事ではない感覚にさせられるのだ。どの収録作にもそれは共通している。最も象徴的で、かつ感動的なのは表題作だろう。三つのパートがランダムに登場する構成は、時代も世界も異なるそれぞれのパートでありつつ、同時に繋がりも示される。(つづく)2025/02/13
柊渚
23
ここであって、ここではない場所。交わるはずのない視線に囚われたとき、広がりゆく綻びが視界を白く覆う。いつか在るべき姿へと還ってしまうであろう物語たちが、この本の中にひっそりとおさめられていました。自分のためだけに築き上げた、箱庭のような世界が大好きなので、『鎭子』や『未の木』は、たまらなかったです。とくに『鎭子』で想像上の土地の無辜の人々が、〈うみの指〉に蹂躙される描写はぞくぞくしちゃいました。『グラン・ヴァカンス』を彷彿とさせる、残酷で苦痛に満ちた美しい絶望。好き……2025/01/03
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