内容説明
2025年、三島由紀夫生誕100年。三島はなぜ自刃したのか―その政治と思想の核心を問い直す。海を二つに割るように、彼は逝った。
目次
エッセイ(古川日出男 海を二つに割るように、彼は逝った;佐藤究 死に向かってビルドアップされてゆく肉体)
対談 三島由紀夫にとって天皇制とは何か―禍々しいアナーキーとしての『文化防衛論』(赤坂憲雄×安藤礼二)
三島由紀夫政治論文選
インタビュー(保阪正康 三島由紀夫の自裁死が問うもの 楯の会事件と日本の近代;中島岳志 なぜ森田必勝なのか―三島由紀夫との距離からみえてくるもの;豊島圭介 いかに三島が死んだのかではなく、いかに三島が生きているのかを撮りたかった)
論考(大澤真幸 海を眺める老人;杉田俊介 三島由紀夫と橋川文三 ほか)
三島由紀夫論集(橋川文三 美の論理と政治の論理―三島由紀夫「文化防衛論」に触れて;吉本隆明 情況への発言 暫定的メモ;加藤周一 三島由紀夫―仮面の戦後派;鶴見俊輔 大衆文化としての天皇制をどう読むか)
感想・レビュー
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パトラッシュ
134
唯美主義者の三島は美しい日本のユートピアを望んでいたのか。その文化的な輝きの頂点に天皇が立ち、世界に冠たる日本たるのを夢見たのでは。豪華絢爛たる文体で人の愚かさ醜さ惨めさを美しく描き続けた三島の、憧れの境地であったかも。しかし数百万の日本人を死に追いやった昭和天皇は、人間宣言で神から人となり責任を免れた。三島の自決は汚れた天皇への問責であり、天皇への呪詛に満ちた磯部浅一の獄中手記同様の戦慄を覚える。理想と政治の悪魔の取引で自分も汚れてしまうのを避け、自死により自らを永遠に論じさせ考えさせる存在としたのだ。2024/11/14
ぐうぐう
33
本書がユニークなのは、三島自身が書いた政治論文と自決から間もない時期に書かれた識者による三島論、そして50年を経ての現在の視点から現在の識者によって書かれた考察とが収録されている点だ。事件に至るまでの三島の考えに対して冷めた批判をしつつも、自決という衝撃からは吉本隆明や鶴見俊輔でさえ逃れることができずにその動揺を吐露している。対し、50年という時間が優位な立ち位置となっている現在の識者の論考は、特に古川日出男や佐藤究といった小説家の考察に共感を抱いてしまうのだ。(つづく)2024/10/17