出版社内容情報
向き合わずにいられて、安全圏で生きられて、いいな―。イジメを見てみぬふりした自分に嫌悪を抱く伏見と、障がい者の兄と暮らす敦子。傷だらけで世界への違和にあらがう高校生たちの物語。
著者情報
2003年、大阪府生まれ。2020年「星に帰れよ」で第57回文藝賞優秀作を受賞してデビュー。
内容説明
大学生の伏見は、旧友の大石と共に、久しぶりに母校を訪ねた。思い出すのは、在学中に起こった特別支援学級の生徒に対するいじめ事件。当時、傍観者だった伏見は、正義感も熱も持てない自分に欠落を感じていた。一方、現在高一の敦子は、知的障害のある兄を持ち、自身もカウンセリングに通いながらなんとか世界に自分をつなぎとめている。彼女は「何食わぬ顔」をするOBの存在が許せなくて―。
著者等紹介
新胡桃[アラタクルミ]
2003年、大阪府生まれ。2020年、「星に帰れよ」で第五七回文藝賞優秀作を受賞してデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ででんでん
56
とてもむずかしいことをテーマにしている作品だと思うが、読んでよかった。かっちゃんの妹の視点や感じ方の描写が特に心に残った。かっちゃんが好きだという気持ちと、外でツボイさんと読んでしまう気持ち、家の中での楽しさや愛情が、外、世間…というものにまといつかれ、変質し減ってしまうような気持ち。古川については、前半と後半のつながりが、私の中ではしっくり来なかった。2023/03/07
もぐもぐ
36
分教室と呼ばれる特別支援学級で起きたイジメ。いじめた生徒も、止めに入った同級生も、傍観していた友達も、卒業して何事もなかったかのように生きている。と装って、皆の心に残り続ける葛藤。難しいテーマですが、単なる善悪の対立構図で終わらせない描き様が見事でした。短い話ですが色々考えさせられます。誰に対してもニュートラルに接する明石さんの姿は、著者の想いを写しているのでしょうか。温かい終わり方でした。2023/01/29
かおりん
27
帯の熱量に負けじとなんとか理解しようと読んだけど、文体が苦手。嘘や支援級へのいじめ、それを傍観する人。数年後大学生になってその時のことを思い出す。世界への違和感をどうしたらいいのか悩む3人。「世界から疎外されていると思った。愛しさと苦しみがそのまま両輪で存在する当たり前にも、自分自身にさえも、向き合うことを恐れた。都合よく世界を嫌って、割り切ってしまうには、あまりにもうちは世界を好きだった」162p2024/09/01
けんさん
25
『何食わぬ顔をされるもどかしさ、するもどかしさ…』 障害を持つ少年に対するいじめ。傍観者の視点、当事者の視点から、どうにもできないもどかしさに悩みながらも、正解を見つけようとする若者の姿を描いた作品。読後に感じるもどかしさ。これも作者の狙い通り?2023/04/15
marumo
20
高校で起こった特別支援学級へのいじめ事件。凄惨な描写が多いんだろうな…と腰は引け気味。でもね、高校生だからね「菌遊び」を始めた古川は相手にされずドツボにハマってしまう。古川自身が厄介な性質で、それを自覚して無様にもがいているんだけど、前半と後半では別人かと思う変わりよう。いわゆる「傍観者」だった子も、家族も、思いは一色ではなく常に揺れている。普通かどうか日々答え合わせをして、普通じゃない自分を嫌ってしまう、恥じてしまう。何食わぬ顔をした子たちの千々に乱れる胸中を覗き見た気分。幸せになってほしいな。2023/07/04