出版社内容情報
本を筆写しながら言語と非言語の閾へと導かれていく私。亡き作家との対話の先で出会う権力の生成点と、小説が導く〈自由〉の地平。
内容説明
詩人に教えられ、筆写をはじめた私。文が書かれる瞬間の流動性に身を委ねると、筆写は、小説へと飛翔していき―。権力の、そして自由の発生点にふれる、アナキズム小説の誕生!
著者等紹介
保坂和志[ホサカカズシ]
1956年、山梨県生まれ。鎌倉で育つ。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。93年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2013年『未明の闘争』で野間文芸賞、18年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
20
私は実際に読んでいる本の筆写を能くする人間だが、筆写はそれをすることで当の文章のエッセンスを深く汲み取れるわけではない。書き写している時間は、むしろ、かなり無である。本書において保坂は、筆写と引用を小説の推進力として用いている。むろん、無の状態では小説を書けないが、保坂はあとがきで「書き写しをしているとかつて読んだ文が活性化する」「書き写しをする方が文が文を喚び起こす」と言っている。つまり文を書き写す行為には、単に無心になるというよりは、シャーマニズム的なトランス状態としての無に近づく効果があるのだろう。2020/01/06
Meme
16
本を読むと稀に読み直したくなる、理解しようとしたくなる文があります。今後はそれらを普段遣いの手帳に書き写してみることにしました。これもまた、小説を書くということと他ならない経験だと思うと、少しだけ小説を読むのが楽しくなりますね。全く読んでるつもりだけの文がある一方で、書き写す文があるなんて、不思議な感じです。2023/06/05
フリウリ
14
発端は吉増剛造さんによる吉本隆明の「筆写」。それに(師匠筋の)小島信夫による「引用」、また小島との架空「対話」、自分との「対話」などがまじって、一つの「小説」となっています(「小説とはまさかこんなものは小説ではないと思うものこそが小説なのだ」43頁)。読みとり難いところもありますが、テーマは、創作はどこから来るか、どこへ向かうか、創作とは何か、ということだと思いました。「評論とは違って小説とは確信を殺ぐような表現形式だ」「どれほど読者に謎としてとどまるか」など、気になる言葉がありました。おもしろい。82023/11/12
ぽち
14
信仰や祈りというのは体に大きな負荷をかける――筆写から発生する小説の言葉と思考の連なりをここでは「小説」とする。「読書実録」とは私見ながらまったく言いえて妙で、読みながら書く(考える)、同時に私性の消失を実感する読書体験。「もはや個体化ではなく特異化からなる此性」ドゥルーズ「あるいは死んだ直後(中略)死んで横たわる人(中略)その人も骨も完全な沈黙の中にいるが決してまったく死という一般性の中に飲み込まれない、」保坂2020/02/23
勝浩1958
11
保坂氏の文を読むことで頭の体操になったような実感を伴うのですが、じゃあその内容が理解できたかというと”ノン”と言わざるを得ないでしょう。でもそれで良いんです。 ことばとことばのあいだで彷徨う浮遊感が私にとっては居心地が良いのです。2019/10/31