出版社内容情報
その日、少年は、自分だけの特別な人形を手に入れたいと思った――少年の「闇」と「性」への衝動を描く、第52回文藝賞受賞作!
【著者紹介】
1994年、東京都生まれ。21歳。現在、会社員。東京都在住。
内容説明
僕はユリカを愛していたんです。愛なんです。先生とか、クラスの連中には、わからない愛。僕は真剣でした。真剣なことを、気持ち悪いなんて言わないで欲しい。時代を超えて蠢く少年の「闇」と「性」への衝動。第52回文藝賞受賞作。
著者等紹介
山下紘加[ヤマシタヒロカ]
1994年、東京都生まれ。現在、会社員。2015年、『ドール』で第五二回文藝賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
110
文藝賞受賞作。若い女性作家が描く思春期男子の陰鬱な性欲と葛藤。好き嫌いが明確に別れそうな作品だが、まず主人公の鬱屈した心理描写とその変遷はとてもリアルで、もう作者は完全に憑依して書いてたんだろうなという印象。とはいえこの繊細さはそんな感覚論だけで片付けられるものでもなく、日々のたゆまぬ人間観察と心象想像の産物であって、素直にスゴいですと拍手したい。どんどん哀れな泥沼に嵌まっていく主人公だが、中三男子の視野狭窄なんてそんなものだろうと自分を振り返って納得。なんというか、捨て身の作品。2016/01/11
吉田あや
93
草むらに打ち捨てられた人形を拾った事を発端に、幼い頃人形は自分にとってセクシュアルな存在であったことを思い出し、今度こそ自分だけの特別な人形を手に入れたいとネットで検索した結果、ラブドールに心惹かれ購入した中学生の僕。「ユリカ」と名付けられた「彼女」と「僕」は、純粋な本当の恋を育てるプロセスをゆっくりと辿りながら、一方の現実では虐めや横暴な姉への苛立ちや憎悪を、どこか他人事のように疎ましく感じていた。成熟前の心が現実を直視しないことで倒錯的な世界を構築していく描写が見事。(⇒)2020/08/26
ちょき
65
文藝賞受賞作ということで読んだが、うーん暗黒。イジメと変質性、これほどのインパクトがないと最近の文学賞は取れないのだろうか?見ると受賞した乙女はまだ21歳。容姿と作品のギャップに驚きを禁じえない。現実世界の子供達の大半は、健全で健やかなのであくまでフィクションとして読める大人に読んでもらいたい。2015/11/24
とろとろ
56
救いようのない歪んだ愛と歪んだ人格を持つ少年の、限りなく真っ暗な話。この本に登場する人物もみんな変。こんな作品は男には絶対に書けないなって思ったよ。この作風を突き詰めていくと、最後はいったいどんな物が出来上がるんだろうか。最近読んだ「異類婚姻譚」といい、自分は何だかよくわからない妄想癖に取り憑かれている。2016/02/15
風眠
48
「過不足なく、汚れていて、美しく、そして哀しい」選評委員・山田詠美氏の言葉。本当にその通りだと思う。家族から邪魔にされ、学校では虐められ、ラブドールのユリカが彼女である中学生男子。境遇だけ見ると可哀想だとも言えなくもない。けれど同情はできない。なぜなら、そんな彼も腹黒いから。ここまで真っ黒になるかってくらい、腹黒いのだ。愛していたはずの対象が憎しみの対象へと変わる瞬間。簡単に反転してしまう心の幼さ、不確かさ。歪んだ性衝動がテーマとなっているが、それほど嫌悪感を抱かなかったのは、やはり文章の力なのだろうか。2015/12/20