内容説明
生きていることが奇跡のように思えてくる、天使が舞い降りてくる―23歳で夭逝した作家・松田瓊子の『サフランの歌』をはじめ、単行本未収録の小説、日記、短歌、エッセイ等を収録。
目次
1 エッセイ・小品集(初夏のリズム;窓より;思い出をしるす;(備忘)
女の子
すみれ)
2 小説(湖畔の夏;サフランの歌;瓊子の生活から(野村胡堂)
跋(松田智雄・とし子))
3 短歌
4 日記(十七歳―一九三三年(昭和八年)
十八歳―一九三四年(昭和九年)
二十歳―一九三六年(昭和十一年)
二十一歳―一九三七年(昭和十二年))
5 松田瓊子その人・作品について(たぐいもないやすらぎ―松田瓊子の世界(田辺聖子)
真剣に生きていますか(熊井明子)
『サフランの歌』のこころ(須賀敦子)
僕にとっての稀覯本(児玉清)
松田瓊子の愛した人びと―姪の聞覚え書きより(佐川碧)
父のことば(野村胡堂))
著者等紹介
松田瓊子[マツダケイコ]
1916~1940年。作家。東京小石川に生まれる。父は作家の野村胡堂。15歳の頃より小説を書き始める。スピリ、オルコット、バーネットらに影響を受け、キリスト教信仰にもとづいた清純な作品を発表。美智子皇后が愛読した作家としても知られる
早川茉莉[ハヤカワマリ]
編集者。『すみれノオト』発行人(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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柊渚
24
もしも天国があるとしたら、きっとこんな場所。花の香りが満ち、空はこよなく美しい色をしている。やさしくて、静かな世界。水晶のように透明に煌めく彼女の言葉たちは、強い意思を持ち、心のなかで脈をうつ。生きていることはそれだけで奇跡なのだと、微笑みかける。エッセイや小説、短歌など、若くして亡くなられた著者の珠玉の作品集。とても、とても素晴らしかった…。みずみずしくどこまでも清らかで、ため息が漏れるほどに繊細で美しい文章。そして、すみれのように可憐な少女が日記に綴った、ただひとりの男性にむける激しい愛に胸を焦がす。2022/04/20
ココマ
16
本書の約半分は一女性の病床日記である。多くのファンがいたのは彼女の生きた世界が浮世離れしていたからだけだろうか。邸と素敵な家族、レコード、青色の自室。何より望んだ人と洋風の結婚式を挙げるという運びは戦前の少女達の胸を焦がせた筈であるが、これほど清冽な文章は他にありそうでないだろう。恵まれていたから心がきれいという事ではないと思う。 一方遺された小説はあどけなさが残るが特に自然と子供の描写が優れていて文才が光ってる。著者には長寿ばかりが良き事とは限らず、一日一生という生き方も又いいのだと教えられた気がした 2019/09/16
まど
16
日記がとても美しい。風景の描写もまっすぐな心も愛し合う二人も…。結婚式の日には、私も参列した気分になり涙があふれた。2013/08/13
みつ
8
何と美しい本だろう、装丁も描かれる情景も人に寄せる心も語られる日本語も、そしてそれらを遺した彼女に対する人々の想いも。同じ時代を生き軽井沢の自然と空気を愛し、同じく結核で夭折した詩人立原道造の美しい文が、どこか虚無的な翳りを帯びているのとは対照的に、信仰と愛することの素直な喜びに満ちている。日記は、1933年から1937年の大晦日までから抄出されたもの。結婚の年の「世界中で愛して」「宇宙中で愛する」のやりとり(3月14日)、「与えられた一分間、与えられた一秒、尊い時を忠実に歩もう」の決意(3月19日)。2021/05/09
ハルト
8
野村胡堂の娘であり、美智子様も愛読されたという作家・松田瓊子。キリスト教を信仰し無垢なる子供を愛し清純な乙女のまま夭折した彼女の、小説や短歌や日記などの作品群とともに、彼女と直接間接的に接した人々の言葉が収められている。すばらしかった。夢のように美しく清らかで初々しいまさに少女小説。本人も、日記からも写真からもわかるとおり、ひたむきに愛し愛され人の善き心を信じて生きた方で、それだけに若くして亡くなられたことが残念でなりません。日記がまたすばらしい。あと神谷美恵子さんとの友情に驚きました。2012/12/15