内容説明
定家の嫡男として生まれ、歌の家の継承を宿命として背負った歌人。歌風は前代の華麗な新古今風とは行き方を異にし、優美でなだらかな歌を志向し、繊細である。従来閑却されてきた為家の歌と伝に初めて光をあて、本来あるべき文学史上の位置を解き明かす。
目次
あさみどり霞の衣
佐保姫の名に負ふ山も
若菜つむ我が衣手も
六十あまり花に飽かずと
明けわたる外山の桜
初瀬女の峰の桜の
よしさらば散るまでは見じ
契らずよかざす昔の
山ふかき谷吹きのぼる
都にて山の端たかく〔ほか〕
著者等紹介
佐藤恒雄[サトウツネオ]
1941年愛媛県生。東京教育大学大学院単位修得退学。博士(文学)。現在、広島女学院大学教授。香川大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
344
編・著者は為家研究の第一人者、佐藤恒雄氏。為家は定家の長子。御子左家の直系中の直系である。また俊成、定家、為家と三代にわたって勅撰集の編者となった。かくも歌の名門に生まれて息苦しかったかとも思うが、為家は先行の歌を学ぶのに並々ならぬ努力を傾けたようだ。しかも、血のにじむという風ではなく、案外にも易々とではなかったか。それは證歌を見事に引用して見せる鮮やかな手法に活かされている。生涯に6000首もの歌を詠んだようだが、代表歌はこれと決め難い。「明けわたる外山の櫻夜のほどに花さきぬらしかかる白雲」か。2022/09/06
しゅてふぁん
47
私は為家が創り出す‘大和言の葉’が好きだ。掲載されている和歌の多くに、この句素敵!というのがあった。さすが御子左家、俊成の孫にして定家の息子で、三代続けて勅撰集の撰者に選ばれた歌人だなと。官位では御子左家三代の宿願を果たしたとはいえ、父定家存命中は歌人としては未熟だったようで、その道で後を託すには心許ない息子だったのかな、とも思ってみたり。伝統の重みに押しつぶされまいとする歌も多く、その心情は計り知れない。2019/07/28
はるわか
13
佐保姫の名に負ふ山も春来ればかけて霞の衣ほすらし/早瀬川波のかけ越す岩岸にこぼれて咲ける山吹の花2022/04/03
山がち
1
再読。前回読んだ時とはまるで印象が違う。今回はやはり偉大な歌人という印象が強い。晩年の定家の影響を強く受けつつも、伝統に堕しないで新しい表現を模索していこうとする姿が強く感じられた。それでいながら、後の二条派につながるような平明で優美な詞遣いとなだらかさというものを感じさせるのだから舌を巻く。ただ一方で、歌の時間的推移をなかなか感じることができないのは物足りないと言わざるを得ない。歌人伝としては確かに和歌以外の活動を見出すことができて適当だとは思うのだけれども、やっぱり和歌における歌人伝としても読みたい。2014/05/17
山がち
1
結構バイアスの強い歌の選び方と解説のようにも見えたが、非常に魅力的に為家が描かれている。父を思う歌や、不遇をかこつ歌、昇進を願う歌などはまさに父定家を想起させ、その人間性を感じさせる。こういった歌が多いのが私にはバイアスが強いと感じたのだけれども、実際に全歌集を読んだら違うのかもしれない。エッセイの岩佐美代子の為家には代表歌と呼べるものはないという評は私にはその妥当性を判断することはできないのだが非常に興味深い。証歌を大事にしたその歌自体も非常に魅力的で、やはり時代を代表する偉大な歌人なのだと感じられた。2014/01/01