内容説明
名門の家柄である大伴氏の族長で、家持の父でもある。『万葉集』におよそ七十首の歌を残すが、それらはいずれも還暦を過ぎてからの詠である。赴任先の大宰府で妻を亡くす悲痛を越えても、実年齢を感じさせない、瑞々しい感性が旅人の歌には溢れている。
目次
昔見し象の小河を
橘の花散る里の
うつくしき人の纒きてし
世の中は空しきものと
竜の馬も今も得てしか
やすみしし吾が大王の
いざ児等香椎の潟に
隼人の瀬戸の磐も
湯の原に鳴く蘆鶴は
君がため醸みし待酒〔ほか〕
著者等紹介
中嶋真也[ナカジマシンヤ]
1973年千葉県生。上智大学卒業。東京大学大学院博士課程修了。現在、駒澤大学准教授。博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
327
旅人の歌は、初期万葉の雄渾さと、後期の家持の歌が持つ繊細さの狭間にあるようで、これまでは酒の歌のイメージくらいしかなかったのだが、今回初めてまとめて読んだ次第。いずれの歌も平明でわかりやすい。もっとも、現存する旅人の歌は還暦以降のものしかないらしく、若き日にはもっと実験的な歌も詠んでいたのかもしれない。中で最も惹かれたのは「沫雪のほどろほどろに零り敷けば平城の京し念ほゆるかも」(『万葉集』巻8)と「吾が岳にさを鹿来鳴く初萩の花妻問ひに来鳴くさを鹿」の2首。いずれも、他ではあまり見かけない表現である。2022/10/23
kaizen@名古屋de朝活読書会
60
#大伴旅人 #和歌 吾が命常にあらぬが昔見し象の小河を行きて見むため #返歌 我が命ある限りにて昔から今日が最後と大事のみ述べ #萬葉集 #短歌2016/01/25
しゅてふぁん
53
令和最初の一冊は旅人さん。旅人と愉快な仲間たち-大宰帥旅人と部下たちの梅花の宴で詠んだ歌、妻を失ってから詠んだ歌、冬の日に雪を見て奈良の都を憶う歌、、、どれも大好き。仕事が出来て気さくで愛妻家の旅人さん、部下からも女性からもモテモテだっただろうな。やっぱり一番好きな万葉歌人だわとしみじみと実感しながら読了。令和が良い時代になりますように。2019/05/01
しゅてふぁん
48
万葉歌人で一番好きなのは、大伴旅人かもしれない。60歳を超えて太宰府の長官に任命され、そこで詠んだ望郷・亡妻の歌が多く残されている(彼の歌は太宰府に赴任して以降のものしか残っていない。とても残念だ)。お気に入りの一首は『沫雪(あわゆき)の ほどろほどろに 零(ふ)り敷けば 平城(なら)の京し 念ほゆるかも(巻8/1639)』この歌の‘ほどろほどろ’が特に印象に残って、素敵だなと思う。旅人の、ちょっと不思議な言葉を繰り返す詠み方が好きだなぁ。この歌を初めて読んだ瞬間からすっかり旅人のファンになってしまった!2018/11/03
はるわか
11
世の中は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり2022/02/08