内容説明
小野小町。平安初期の六歌仙にただ一人選ばれた女性。業平とともに色好みとして名を馳せ、後人による小町歌が加わり、美人落魄伝説の主人公としてその名が各地に伝播した。生没年も出自も定かではなく、小町が残した歌で確かなのは『古今集』の十八首だけだが、その歌から九世紀中葉の宮廷と文化人の間で新しい歌が形成されていく時流の中心に生きた小町像が浮かび上がる。唐代文学と新仏教の波を受けつつ仮名文字が生み出される渦中にあって、恋歌を詠い続けることで王朝女流文学の先駆的存在となった。「百人一首」で有名な「花の色は移りにけりな」の歌は、その実像と虚像の架け橋である。
目次
思ひつつぬればや人の
うたた寝に恋しき人を
いとせめて恋しき時は
うつつにはさもこそあらめ
かぎりなき思ひのまゝに
夢路には足もやすめず
秋の夜も名のみなりけり
あはれてふことこそうたて
花の色はうつりにけりな
秋風にあふたのみこそ〔ほか〕
著者等紹介
大塚英子[オオツカヒデコ]
1933年岡山県生。東京大学文学部国文学科卒業。元・駒澤大学講師(非常勤)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
355
編者の大塚英子氏によって選ばれた小町の歌29首の巻頭を飾るのがこの歌。「思ひつつぬればや人の見えつらむ夢としりせばさめざらましを」―古今集の歌だが、「恋」と「夢」という、小町を語るに欠かせない要素を2つ共に併せ持つ歌である。生没年をはじめ、わからないことが多い小町。古今集仮名序で貫之が「衣通姫の流」と語っているところから、王朝はおろか歴史上屈指の美女とされたり、一方謡曲などでは(「卒塔婆小町」他)晩年の落魄した姿が伝えられる。そんな小町の中で確かなキーコードが「恋」と「夢」だろう。2022/06/19
新地学@児童書病発動中
95
熱烈は恋歌で有名な小野小町の作品を詳細に分析した書。文法的な用語が多く出てくるので、このシリーズの他の本にくらべてやや読みにくい。「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを」のような歌は、どんな人の心も動かす力を秘めていると思う。人を愛する喜びと哀しみを、これほど鮮やかな言葉で表現した人はいない。本書を読むと、小野小町は仏教に傾倒しながら、恋の歌を詠んでいたことがよく分かる。仏教を通して自分の心を突き放して見ることもできたようで、そのことが作品をさらに味わい深いものにしている。2017/11/18
kaizen@名古屋de朝活読書会
85
#小野小町 #和歌 思ひつつぬればや人の見えつらむ夢としりせばさめざらましを #返歌 夢に生き夢が覚めずと生きられる夢の中にも夢があるなら 今昔秀歌百撰に「色見えでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける」があったので本書を手に取りました。 この歌は紀貫之の新撰和歌に再撰し、古今仮名序でも紹介とのこと。 「色見えで」を「いろみえて」と濁らず清音とするかどうかの議論の紹介がある。 奥が深い。2013/05/03
ピロ麻呂
31
(マイベスト)思ひつつ ぬればや人の 見えつらむ 夢としりせば 覚めざらましを あなたのことを思いなが寝たので、夢の中であなたに逢えた。夢だと分かっていれば、醒めずにずっと夢で一緒にいたかったのに。2017/01/23
ゆずきゃらめる*平安時代とお花♪
16
「花のいろはうつりにけりないたづらにわが身世にふるながせしまに」有名な古今和歌集などに入る女性文学者です。歌人というけれど彼女は歌の掛詞、読み仮名を生み出したとゆう謎が。この歌も「花の色・・」は小町の美しさや若さなのか、恋の変化をうたっているのだろうか。2020/12/11