出版社内容情報
●持続可能な社会への変革は可能か
ヒトの「将来可能性」の創造を目指して 2012 年に誕生したのがフューチャー・デザイン(Future Design 以下、FD)だ。「たとえ、現在の利得が減るとしても、これが将来世代を豊かにするのなら、この意思決定・行動、さらにはそのように考えることそのものがヒトをより幸福にするという性質」を将来可能性とし、ヒトの将来可能性を生む社会のデザインとその実践をFDと呼んでいる。親が自分の食べ物を減らし、その分を子供に与えることで幸せになることを血縁関係のない将来世代まで伸ばせるのかという根源的な問いかけである。
FDの枠組みにおける 2 つの基本的なコンセプトは「ヒトの考え方」と「社会の仕組み」である。従来の社会科学では、ヒトの考え方と社会の仕組みの両方を与件として、様々な課題に関し何が起こるのか、というアプローチをとる。ヒトの考え方や好みは変わらないとする一方、帰結の衡平性や効率性を社会目標とし、それを達成するための社会の仕組みのデザインを考えてきたのが20 世紀後半からの制度設計、ないしはメカニズム・デザインの立場である。ただ、このアプローチでは人々の考え方そのものを変数とする視点がない。他方で、社会の仕組みそのものの変革ではなく、何らかの「ナッジ」的な(背中を押してもらう)手法で、人々の考え方を変えるというよりはむしろ行動変容をうながすのが行動経済学的な手法であろう。ただ、ナッジ的な手法では、たとえば数パーセントの温室効果ガスの削減には成功するものの、温室効果ガスをほぼ出さないという目標を掲げたとたん、うまくいかない可能性がある。FDは、持続可能な社会の実現のため、「ヒトの考え方」そのものを変える「社会の仕組み」のデザインを目指すものである。
筆者の西條氏は、現役世代の効用を最大化するミクロ経済学の限界を克服するために将来世代を視野に入れた日本発の改革のフレームワークとしてFDを提唱した名実ともにFDの第一人者。FDは多くの自治体で実践され、慶応義塾大学・小林慶一郎教授もこのフレームワークの有用性に着目し強く推している。
FDについては考え方から実践まで包括的に統一の視点で書かれた本はなく、本書は決定版となる。
内容説明
私たちは産業革命を経て、科学技術の力を借りて、地球そのものを変え続けている。現世代の便利さと引き替えに将来世代に「脅威」を残し続けている。そのような失敗を引き起こしてしまう社会の仕組みはどこからきたのか。フューチャー・デザインとは、将来失敗を回避し将来可能性を最も発揮できるような社会の仕組みを現世代がデザインすること。その考え方から実践の原則、課題までを、第一人者が包括的に解説。
目次
「私たち」は何をしてきたのか
フューチャー・デザインは何をめざすのか
社会的ジレンマ
世代間持続可能性ジレンマ
仮想将来人はほんとうに機能するのか
岩手県矢巾町―初めてのフューチャー・デザイン実践
パスト・デザイン
さまざまな実践
さまざまな実験
フューチャー・デザイン:実践の原則
フューチャー・デザイン実践:新たな出発
政策提言とダイアログ・マップ
投票と無知のベールの有効性
将来世代のしあわせ法と市民会議
新たな社会のデザインをめざして
著者等紹介
西條辰義[サイジョウタツヨシ]
京都先端科学大学特任教授、フューチャー・デザイン研究センターディレクター。米ミネソタ大学大学院経済学研究科博士課程修了、Ph.D.オハイオ州立大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ワシントン大学セントルイス、筑波大学、大阪大学、高知工科大学、一橋大学、総合地球環境学研究所などを経て現職。専門はフューチャー・デザイン(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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