内容説明
死者たちの暮らす、名も無き街。ある者は赤い砂漠に呑まれ、ある者は桃の果肉に絡みとられ、誰一人として同じ道をたどらずやって来る。生きている者に記憶されている間だけ滞在できるというその場所で、人々は思い出に包まれ、穏やかに暮らしていた。だが、異変は少しずつ起こっていた。街全体が縮みはじめたのだ。その理由について、死者たちは口々に語る。生者の世界で新型ウィルスが蔓延しはじめたこと、人類が滅亡に向かっていること、そして、南極基地でただ一人取り残されたローラという女性について―死者たちの語る話からほのみえてくる終わりゆく世界の姿とは…。
著者等紹介
ブロックマイヤー,ケヴィン[ブロックマイヤー,ケヴィン][Brockmeier,Kevin]
1972年生まれ。アメリカ合衆国アーカンソー州在住。ニューヨーカー誌など、さまざまな刊行物に短篇を発表している。O・ヘンリー賞、ネルソン・オルグレン賞、イタロ・カルヴィーノ短篇賞ほか数々の賞に輝き、文芸誌「グランタ」が10年ごとに発表する「もっとも有望な若手アメリカ作家2007」に選ばれ、アメリカを代表する若手作家として不動の評価を得た
金子ゆき子[カネコユキコ]
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒。英仏文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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りつこ
27
全体的に見たらもやもやした話なんだけど、あちこちに散りばめられた情景やセリフが伏線になっていて、ボンヤリ読者の私もはっとしたりグッときたり。死んだ後に行く街は懐かしくて親しくてだけどとっても寂しい。死んでもなお生きていて日常があってその先があるのかないのか分からなくて。それでも好きな人ができたり口論したり会いたい誰かを想ったり過去や未来に思いを馳せる。やっぱり好きだなぁ、この人の作る世界。最初と最後に盲人。風船。氷。海と空。そしてコーラ。2012/06/02
ミツ
23
仄暗く、暖かな心臓の鼓動に包まれた世界の終末と死を巡る現代の寓話、もといスピリチュアル・ファンタジー。死者たちが穏やかに暮らす街の終わりと、おそらく人類最後の生き残りであろう女性の南極大陸でのサバイバルが交互に進行する。無国籍などこでもない場所で、現れては消える過去の想い出たち。人は死ぬときに全生涯の記憶を走馬灯のように思い出すというが、そうした記憶の中で生きている、自分が今まで関わってきた無数の人たちのことを考えずにはいられなかった。緩やかな絶望と穏やかな幸福に満ちた世界の終わりを味わいたい方はどうぞ。2016/03/13
きゅー
22
死んだ後の人々の生活という奇想と、ディザスター小説を一つにまとめるというアイデアが面白い。途中までは愉しく読んでいたが、中盤から物語がだれてくる。そして一番の興味は、この物語がどのようにして終わるのかに絞られてくる。そこで作者は、人は他の人に記憶されることによって生きているという具体的で強烈なメッセージをもたらす。そのメッセージはまったく隠されていないため、こちらが気恥ずかしくなるばかりだ。しかし、確かにそうだ。世界が破滅するというその瞬間まで、人は誰かのことを記憶に抱き、生きていける。2014/07/25
はんみみ
17
ブロックマイヤーはなんだか知らんが私にとって美しい作家だ。美術品ではなく、機能的で整っていて美しい。終わりの街の様子は縁がキッチリ直角に整えられたローラ・バード型の深い穴を見ているようだった。あまりにも整っているのでまるで芸術作品のように美しい。2016/02/08
501
15
現世の人間に記憶されている限り住むことができる死後の街。現世に記憶している人がひとりもいなくなると、その人は街から消える。一方、現世では驚異的な感染力と致死力をもつウィルスがパンデミックを起こし、生き残ったのは南極大陸で企業の指示で調査を行っていた女性がひとり。と深く広げられていけそうな舞台だが、登場人物の行動が淡々と綴られミニマムな世界観で閉じている印象。死後の世界に住む人々の心情や暮らしぶり、現世で起きたパンデミックから引き起こされる人々の行動など、もっと舞台をいかして深掘りしてほしかった。2022/07/23