感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
71
心から共感し合っていたトム・アウトランドという青年の死後、自らを孤独の生活の中に閉じこめていたセント・ピーター教授の再生の物語。トムの稀有な体験と彼の純情さとは裏腹に、トム発明はその死後トムの婚約者だった教授の長女を裕福にした。長女の俗物化、彼女に対する羨望、嫉妬。そういった状況に嫌気がさして自らの中に閉じこもる教授の孤独の深さ。純粋の権化のようなトムは死に、自分は俗世に生きている。ならば、彼は、その世界となんとか折り合いをつけていかなくてはならないのだ。2021/07/04
takeakisky
1
大事なことがすべて起きてしまった後からストーリーが始まる。教授、妻、二人の既婚の娘、その連れ合い。ぽっかり空いた穴、アウトランドの死。その周囲を、徐々に範囲を狭めながら回る人々。それぞれが少しづつ異なるトムを持っている。互いへの違和と部分的な赦し。折り合い。癒えないこと。教授を軸に繊細に書かれる。二章でトムの一人称の手記を挟み、三章。家族の旅行中、一人で過ごす教授。死の縁まで行き、彼が捨てたものは。それが無くなることで、現実に毅然と向き合える何か。オープンエンデッドエンディング。非常に読み応えある一篇。2024/06/02
タケチョ
0
キャザーの作品にしては、珍しく小説的な統一感を感じる物語。そうは言っても、語り手も第2部だけ1人称だし、かなり特異な3部構成なんだけれど。ますます物質的になる現代社会に背を向けるセント・ピーター教授は、キャザー自身ですね。2021/11/13