内容説明
日本を代表する詩人であり、絵本や随筆の傑作も多い長田弘が紡ぎ出した連載最後のエッセー集。日常の何気ないひとコマが、私たちの日々の暮らしに四季の彩りを与えてくれる「果実」や「花実」を介して、読む者の心を優しく包み込む極上の物語に―。日本語とはこんなにも美しく、繊細で豊かな表現力を持ち合わせた「ことば」だったのかと感じさせてくれる。至福の読書体験にお薦めしたい一書。
目次
ことばの果実(苺;さくらんぼ;甘夏;白桃;スイカ ほか)
ことばの花実(オリーブ;グリーン・トマト;笹の葉;にんにく;胡椒 ほか)
著者等紹介
長田弘[オサダヒロシ]
詩人。1939年福島市に生まれる。63年早稲田大学第一文学部卒業。65年、詩集『われら新鮮な旅人』でデビュー。82年『私の二十世紀書店』で毎日出版文化賞、98年『記憶のつくり方』で桑原武夫学芸賞、2000年『森の絵本』で講談社出版文化賞、09年『幸いなるかな本を読む人』で詩歌文学館賞、10年『世界はうつくしいと』で三好達治賞、14年『奇跡‐ミラクル‐』で毎日芸術賞受賞。ほか絵本、翻訳など著書多数。2015年5月永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やすらぎ
176
日常にある幸福のエッセイ。柔らかな木肌や艷やかな葉に支えられて、なにもなかった枝に実る輝き。ことばにも果実がある。たわわな房が大切な想いのように熟成されて、芳醇な香りが食と笑顔を彩る。小道を抜けて振り返った仕草のような、爽やかな柑橘の風にふれた日々を懐かしむ。果実や花実を愛し、恵まれた土地に生きる方々は、穏やかで豊かなこころを保ち、空高く、清らかな光が似合う。幸せはかたちを変えながら、甘味となり優雅さを届けてくれる。ふと、風邪を引いたときに沁みた果実を思い出した。懐かしさが蘇る。だから読書はやめられない。2024/08/12
シナモン
107
「オレンジを強く絞り過ぎると苦いジュースになる。すなわち、過ぎたるは及ばざるがごとし。オレンジの真実である」「小さな壜のなかに、明るい大きな森がある。それがわたしのメイプルシロップ」「いったい、にんにくぬきの人生などあるだろうか」「胡椒の効かせ次第なのだ。人間の悲哀も、幸福も」美しいことばとみずみずしいイラストが心にじんわり沁みていく。手もとに置いて大事に少しずつ読みたい一冊。2023/09/07
アキ
99
長田弘のことばに色を添える松野美穂の挿画か瑞々しい。「ことばの果実」苺から始まり、白桃、スイカ、葡萄、レモン、ミカン、トマト、オレンジ、パイナップル、梨、五味子、林檎が良かった。「ことばの花実」では、オリーブ、グリーントマト、牡丹、茄子、ハラペーニョ、アスパラガス、もやし、納豆が良かった。テキサスで食べたチリ・コン・カンとハラペーニョ。天国に跳び上がるほど辛いこの小さな唐辛子を、メキシコ人は天国の実と呼ぶが、テキサス人はテキサスのピーナッツと呼んでポケットに忍ばせるらしい。面白いけど、ホントかな?2022/03/03
taraimo
27
物語のシーンや手紙にも季節感を添える果実や花実のひとつひとつにスポットを充て、語られる想い出やエピソードが、みずみずしい絵のように浮かびます。さわやかな柑橘系で括られる実でも、それぞれに個性やニュアンスを覗かせます。印象的なのは、甘夏ひとつ全部を完食できる孤独という幸せ。せわしなく何処へ入ったか分からない食事をしていると、ふと素材を味わい噛みしめる悦び、それが自分と向き合うための時間だと思ったりします。人生で溜め込んだ荷物を選別したら、本当はシンプルにミカン箱に収まる程度なのかもしれないな…2023/01/31
あきあかね
22
長田弘さんの詩は、見慣れたものを、平易な言葉で新鮮なものに変える魔法のようである。様々な果物をめぐるエッセイからなる本書も、甘夏の「明るい孤独」の味や、「人生の悲しみみたいにでかい」スイカといったように、身近な果物たちが違った表情を見せてくる。みずみずしく温もりのあるタッチの果物のイラストにも心が和む。 風邪をひいた子供の頃、母が絞ってくれた林檎のジュースの、体のすみずみまで沁みわたってゆく味のように多くの読者が共感できるものも、北米ヴァーモント州の、森の木立を渡ってゆく風の味がする⇒2023/09/04