内容説明
『無刑録』とは、刑が無くても犯罪が発生しないような理想の世を求め、芦東山が著した。当時、刑罰は犯罪に対する報復であるとする応報刑論が主流だったが、人間尊重の立場から犯罪者を更生させるための手段だという教育刑論を唱えたもの。江戸時代中期、24年間もの幽閉生活にめげず、刑法思想の根本原理を論じ、己の考えを貫き通した生涯とは―。岩手県一関市が生んだ偉人を描く歴史長編小説。
著者等紹介
熊谷達也[クマガイタツヤ]
1958年、宮城県仙台市生まれ。東京電機大学理工学部数理学科卒。97年、『ウエンカムイの爪』で第一〇回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。2000年、『漂泊の牙』で第一九回新田次郎文学賞、04年、『邂逅の森』で第一七回山本周五郎賞、第一三一回直木賞のダブル受賞を果たす。『荒蝦夷』や『銀狼王』など東北地方や北海道の民俗・文化・風土に根ざした作風で知られる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のぶ
82
無刑録の編纂を行った、芦東山の生涯を描いた物語。無刑録とは刑がなくても犯罪が発生しないような理想の世の中を求めたもの。そして芦東山は何度も名前を変えていて、作中で芦東山の呼び名を使っているのは、終盤を除きほとんどなく、幸七郎として活躍している部分が多い。無刑録は何か難しいイメージがあるが、これもほとんど出てこない。幸七郎は若い頃からとにかく学問が好きで、本を手放したことがない。そんな幸七郎はいろんな人と関わりながら、ライフワークを推し進めていく。やや地味な物語だが、真面目な人物を真摯に描いていた。2021/03/24
Totchang
16
農民の出身でありながら仙台藩に武士として取り立てられ、儒学者として仕えた芦東山を描いた作品。儒学と朱子学の派閥争いにも触れて面白いが、荻生徂徠の「古文辞学」にも興味を惹かれた。真っ直ぐ過ぎて融通も効かず、自説も曲げない、忖度をしない儒学者。24年に及ぶ幽閉もむべなるかな。最初に渋民が出てきたので盛岡市の話かと思ったら、一関市大東町の渋民とのことだった。歴史に埋もれた思索家の話だが、とても面白かった。2021/06/08
りょうけん
14
<驚> 少し前に読んだ著者のエッセイ集『いつもの明日』にて,この本はそれはそれはしつこくw紹介されていた。いや,書いている最中の苦労話を綴っていただけで宣伝してたわけではないのですが・・・という本書に至る経緯などもあって,本が面白いかどうかについては,ハッキリ言ってあまり期待はしていなかった。 2021/06/09
さんつきくん
7
面白かった。江戸中期を生きた、仙台藩の儒学者・芦東山の生涯を書いた小説。仙台藩磐井郡渋民村(現岩手県一関市)の農家に生まれた東山は勉学がとても出来た。幼少時代は地元のお寺で学んでいたが、抜き出た学力を更に研くため、仙台や京都で学ぶことになる。仙台藩5代目藩主・伊達吉村に認められ藩の儒員となる。藩の書物を編纂するなど多忙を極めていた。藩校を設立する際に自分が出した案が採用されず、臍を曲げてしまった東山。やがて藩との軋轢が強まり、加美郡宮崎村に幽閉されてさしまう。24年間の幽閉期間の中で、大作「無刑録」を記す2021/05/01
r100rider
6
☆7 物語は江戸時代中期、仙台藩の北部・渋民(現在の一関市)の大肝入りの岩渕家に生まれた善之助(後の儒学者・芦東山)の苦難の生涯を綴った1冊。 儒学者として生涯を生き、代表作の『無刑録』は、明治政府の時期日本の近代刑法の誕生に重要な影響を与えたとあるが、不器用で真っ直ぐ過ぎ、融通も効かず、自説も曲げない生き方をした思想家の話しだったが、また一つ勉強になった。2022/01/28