内容説明
少年の遊びの場は破壊され、廃墟になってしまった。鉄条網がはりめぐらされ、兵士たちが見張っている。父さんとよく登ったあの美しい丘にはもう行けない。がれきのなかに、少年がふと見つけたちいさな緑の芽。荒れ果てた大地にいのちは甦るのか?危機に満ちた今の時代に生きる子どもたちに、そして、おとなたちに贈る、少年の示した人間の希望の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
195
平和を求めて描かれる絵本は多い。…目の前に広がる殺風景な景色。破壊された瓦礫の街。そこに芽生える希望の光。人間の差別意識と偏見が造った鉄条網。人々を分断できても鳥や植物には関係ない。自然に生きている。…小さな命を見つけて雨水を注ぐ少年。兵隊に壊された植物のこぼれ種を大切に育てる網の向こうの少女。心の揺れ動きを色で表現する。色のある場所には子どもは集まる。寒くても、今が辛くても、自由に行き交える日が来ると信じている。…蔓を伸ばすブドウの木のたくましさ、子どもたちの強さ、人間の希望、平和の大切さを感じられる。2021/06/26
モリー
69
街が破壊された後、鉄条網で隔てられたあちらとこちら。訳者である柳田邦男さんは、ここに描かれた鉄条網は、「人間社会の悲しくもいまわしい差別意識や偏見を象徴的に示すものと見ることができる」と述べています。がれきの中から芽を出したぶどうの木が希望を象徴しているように私は感じました。2020/06/21
天の川
60
鉄条網がある。がれきと化した町に。鉄条網の向こうには人々が穏やかに暮らす町が見える。人々を分断する鉄条網は人々の心の中でも高く高くそびえていくのだ。少年が育てたぶどうの木を兵隊たちが抜き去っても、根を伸ばしたぶどうの木は鉄条網の向こうの町の少女に育てられ、がれきの中からも新たに芽吹き、互いに絡み合い育つ。モノクロの絵に彩色されたぶどうの木が目に鮮やかだ。平和を望む屈しない心をぶどうと共に育てる子ども達に希望を見出す。子どもに平和を訴える絵本はいくらあってもいい。今の情勢の中では特に。2024/01/23
とよぽん
44
イギリスで平和をテーマに絵本を作るマイケルさんが、モーパーゴの他にもいたことを知り、嬉しくなった。イギリス東海岸沿いで1941年に爆撃を受けた記憶がマイケル・フォアマンの原点。鉄条網が隔てる世界、戦争の生々しい傷跡にあって、ぶどうの木の小さな芽に生きる希望をもつ少年のたくましさが素晴らしい。2020/06/24
どあら
29
図書館で借りて読了。大事に育てた木が引き抜かれるのは悲しい…。(5分45秒、4年生以上)2022/01/10