出版社内容情報
食べて出せればOKだ!(けど、それが難しい……。)
「人間なんてしょせん食べて出すだけ」。なるほど。ではそれができなくなったらどうする――個性的なカフカ研究者として知られる著者は、潰瘍性大腸炎という難病に襲われた。食事と排泄という「当たり前」が当たり前でなくなったとき、世界はどう変わったのか? 高カロリー輸液でも癒やせない顎や舌の飢餓感とは? ヨーグルトが口腔内で爆発するとは? 茫然と便の海に立っているときに看護師から雑巾を手渡されたときの気分は? 切実さの狭間に漂う不思議なユーモアが、何が「ケア」なのかを教えてくれる。
*「ケアをひらく」は株式会社医学書院の登録商標です。
目次
はじめに 「食べて出す」ことが、あたりまえでなくなったら?
第1章 まず何が起きたのか?
第2章 食べないとどうなるのか?
第3章 食べることは受け入れること
第4章 食コミュニケーション――共食圧力
第5章 出すこと
第6章 ひきこもること
第7章 病気はブラック企業
第8章 孤独がもれなくついてくる
第9章 ブラックボックスだから(心の問題にされる)
第10章 めったにないことが起きる/治らないことの意味
あとがき 白石さんとホワイトボード
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鉄之助
329
『絶望図書館』の頭木弘樹が、13年の引きこもり生活のきっかけとなった病魔との戦いを、冷静にユーモア交えて活写した。普段なにげなくしている、「食べる」と「出す」が突然できなくなる、難病・潰瘍性大腸炎。安倍元首相を2度の辞任に追い込んだのもこの病気だ。病気をすると、「幸福のハードルが下がる」という。朝起きて、どこも痛くないと「すごく幸福だ」と思い。いろんなことに感動、こころ動かされる。食や病気にかかわる古今の名作が、随所に散りばめられているので、2度おいしい本となっている。2022/11/02
どんぐり
118
「潰瘍性大腸炎」は、時の総理を苦しめた難病として、いまではよく知られるようになった。難病だから治りはしないし、本人が語らない限りどんなことに苦しんでいるのかは、なかなか伝わってこない。そういう意味では、当事者が自分の体験をとおして、この病気の最も切実な問題群の「食べること」と「出すこと」について率直に語っている点がたいへん興味深い。食べられない物が増えて外界に対して拒絶的になったり、漏らすことによって「尊厳」を失っていく、そのあたりの自問自答から病いがもたらす現象の意味づけや生き方を見出そ2021/02/01
アキ
105
著者が潰瘍性大腸炎という難病を患い大変な経験をした事から「食べること」と「出すこと」についての考察を多くの文学を引いて説明している。特にカフカ研究者として彼の言葉を多く引用している。「食べること」は、受け入れることと説く。考えてみれば、口からおしりまで未知なるものを通してしまうなど大変大胆なことに違いない。「出すこと」について、人前で恥をかくと他人に服従しやすくなることに行き着く。コロナの今、引きこもることや、病むこと、孤独であることなど、著者ならではの「経験の先覚者」の言葉が誰の心にも届くのではないか?2020/12/13
けんとまん1007
101
そう、帯にある通り、人間は食べて出すだけの一本の管。それは、体感している。難病に罹った著者の記録が、じわじわっと沁み込んでくる。日常とは何かを考える。2022/02/28
抹茶モナカ
94
頭木さんの著作は、なんとなく読み継いでいて、図書館にリクエストして読んだ。『絶望』シリーズのファンなので、その根本原因の難病の話で一冊書かれたのか、という興味もあった。在野の文学研究者で、これまでの氏の著作読者への目配りもあったのか、偉人や文学からの引用も配されている。病気の経験談だから、僕も治らない精神疾患を持っているのもあり、幾ばくかの共感と、自分はまだ恵まれているのだな、という感覚。そう言えば、安倍晋三さんもこの本での難病と同じ病気だな、と思ったけど、そういうカテゴライズが嫌だと本の中にあった。2020/10/11