出版社内容情報
病院によって大きく変えられた「死」は、いま再びその姿を変えている。現在の在宅死は、かつてあった看取りの文化を復活させたものではない。先端医療が組み込まれた「家」という未曾有の環境のなかで、訪問看護師たちが地道に「再発明」したものである。著者は並外れた知的肺活量で、訪問看護師の語りを生け捕りにし、看護が本来持っているポテンシャルを言語化する。「看護がここにある」と確かに思える一冊。
村上 靖彦[ムラカミ ヤスヒコ]
著・文・その他
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
50
【昔の死は禍々しいものとされ、病院死時代の死は“隔離・隠蔽”された】それに対して現代は、治療不可能な患者への緩和ケアが可能になったことで、終末期の患者を生活の中でサポートできるようになった。本書は、生と死を連続させた現代の訪問看護の現場インタビューを三部構成で言語化したもの。一つ目は、快適さと安楽を生みだすこと。二つ目は、小さな願いを聞き出し実現すること。三つ目は、病や死をめぐる困難な状況を引き受けて応答すること。なお本書では、生活と死を連続させる意図をもって、「慢性期」と「看取り」の区別はしていない。⇒2020/09/15
みき
10
在宅という現場で状況に否応なく巻き込まれながら、それでも踏み込んでいく決心をする看護師の姿が描かれている。この決心や、踏み込む力、そして結果的に対象のエネルギーへの媒体となっていく動きが、看護ということなのかと考えさせられた。こんな仕事、できるかな。すごい精神力が必要だ。2023/09/23
owlsoul
6
病院で死ぬことが当たり前となっていた現代人は、超高齢化社会の只中で新たな死の在り方を「発明」しつつある。最後まで自分らしくあるために、住み慣れた自宅で死を迎えたい。看取りのスキルが失われた現代社会において、そんな人々の願いを叶えるには訪問看護師の存在が必要不可欠だ。苦しみの中、死と向き合うことで純化される患者の願い。看護師は、患者自身や周囲の人々に潜在する「力」の流れを見極めながら、最後の願いを叶えようと最善を尽くす。現象学に造詣の深い著者が、訪問看護師のインタビューを素材として組み上げる「看取りの哲学」2022/02/13
ichigomonogatari
6
まあすごい迫力と知らないことに満ちた本だった。今、終末期の在宅の看取りは訪問介護の支えがないと成り立たない。著者は6人の訪問看護師に徹底的にインタビューし、終末期の訪問介護の現場と、そこでの看護師らの答えのない試行錯誤に満ちた奮闘を描き出した。看護師は患者が家でできる限り快適に暮らし、願いや望みをかなえ楽しく過ごせることをに心を砕く。手厚い支えがあるならば、自宅での看取りは患者に取っても家族に取っても自然で納得できるものなのだな、と思わされた。2021/04/24
kitapon1221
5
私自身は病院での看護経験しかないけれど、在宅に移行する患者さんに関わったことは何度もある。そこで気づいたのは、病院でのやり方をそのまま自宅には持っていけない、ということ。自宅環境や家族の協力体制も、各家庭によってバラバラだからねー。医療技術の進歩によって、自宅における看取りを再発明しつつある、というのは、正にその通りだなぁ、と思った。訪問看護師さんたちの語りは新たな発見に満ちていて、ひとつひとつ噛み締めるように読んだのだけど、もう少し会話の流れを大事にしてもよかったと思う。看護の魅力が詰まっている良著!2021/10/11