出版社内容情報
痛いのは困る。気持ちいいのがいい。
現役の小児科医にして脳性まひ当事者である著者は、あるとき「健常な動き」を目指すリハビリを諦めた。そして、《他者》や《モノ》との身体接触をたよりに「官能的」にみずからの運動を立ち上げてきた。リハビリキャンプでの過酷で耽美な体験、初めて電動車いすに乗ったときのめくるめく感覚などを、全身全霊で語り尽くした驚愕の書。
*「ケアをひらく」は株式会社医学書院の登録商標です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
92
小児まひで生まれ、東大医学部を卒業し、小児科医・現東京大学先端科学技術研究センター准教授の経歴とは別に、脳性まひという体験と極めて個人的な体の官能についての当事者でしか語りえない身体論。生後毎日施行した健常な動きを模倣するリハビリでは、焦りから緊張が増すばかりで「敗北の官能」を感じるのみであった。大学生になりひとり暮らしを始めて自分の動きと内部モデルを立ち上げ、他者と自己や身体内外の隙間をつながりで埋めるという契機を生むことになる。数か月に1度転倒することは自分の身体と向き合うラディカルな運動なのである。2020/11/10
ネギっ子gen
64
再読だが、何度でも読み返したい本。現役小児科医にして脳性まひ当事者である著者は、18歳の時、幼少期から毎日欠かさず行ってきたリハビリをやめた。「健常な動き」を目指すことを諦めたのだ。都会で一人暮らしを始めた著者は意外なことを発見。他者やモノたちが「私」の身体を突き動かすと――。リハビリキャンプで、トレーナーから授かる快感と恐怖などが記述され、<「運動に内在するはずの官能」というものに目を向け/私の中で湧き上がる、「痛いのは困る。気持ちいいのがいい」という粗削りで弱々しい体の声を羅針盤にして>、論じた書。⇒2021/01/19
けぴ
50
小児麻痺の障害を持つ著者が、どんな体の状態でどんな気持ちなのかを細かく述べた本。読んでいて十分理解したとはいえないが、著者の熊谷晋一郎さんの赤裸々な真摯さには、心うたれるところがある。山口県出身で大学からは東京大学医学部入学し一人暮らしをして医師となる。現在は臨床からは離れた研究職についているようであるが大変な努力があったことでしょう。医学書院発行ながら一般書として読み応えありました。2022/01/22
Roko
36
著者の熊谷さんは、脳性まひで電動車いすに乗っている小児科医です。現在は「当事者研究」に力を入れていて、障害や病気を持った本人が周りの人たちの力を借りながら暮らす中で発生する問題について研究されています。この本の中で多くのページを割いている「リハビリキャンプ」の話がスゴイのです。脳性まひの子どもたちを集めて合宿状態でリハビリを行うとのですが、そこで施術をするトレイナーの人達を冷静な目で観察していた、子ども時代の熊谷さんが考えていたことを文章化しているのですが、これが衝撃的です。2023/08/21
zirou1984
32
新生児の頃から脳性麻痺を患い、手足の機能に障害を抱えながらも、医師となった著者が自身の体験を、障害者の持つ心理メカニズムを驚くほどに言語化していく。リハビリが正常を目指すが故に続く不断の失敗が敗北を官能の色に染め、健常者やトレーナーのまなざしこそが当事者の身体感覚を規定する。ここにあるのは概念化される以前としての他者という感覚だ。その隙間に宿る自由のために語る著者の言葉は何より興味深い。感情の機微が医師としての客観性と合わさり、自身の身体からもうひとつの世界が立ち上がってくる感覚を味わえる。2017/10/08