出版社内容情報
『若冲』で一躍注目を集める澤田瞳子氏の原点となる作品。デビュー前に発表した、東海道を行き交う人びとの機微を描いた連作集。
内容説明
東海道の要所、箱根山。両親と兄弟を流行り風邪で亡くしたおさきは、引き取られた叔母にこき使われ、急峻を登る旅人の荷を運び日銭を稼いでいる。ある日、人探しのため西へ赴くという若侍に、おさきは界隈の案内を頼まれる。旅人は先を急ぐものだが、侍はここ数日この坂にとどまっていた。関越えをためらう理由は…(表題作)。東海道を行き交う人々の喜怒哀楽を静謐な筆致で描く連作集。
著者等紹介
澤田瞳子[サワダトウコ]
1977年京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院博士前期課程修了。専門は奈良仏教史。2011年、初の小説『孤鷹の天』(徳間書店)で第17回中山義秀文学賞を最年少で受賞。13年『満つる月の如し 仏師・定朝』(徳間書店)で、本屋が選ぶ時代小説大賞2012(「オール讀物」誌)ならびに第32回新田次郎文学賞、15年『若冲』(文藝春秋)で第153回直木賞候補、16年同作で第9回親鸞賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タイ子
88
これはいい作品だ。澤田さんの史実をとことん追い詰める歴史小説もいいけど、こういった短編小説の中で人々の喜怒哀楽を切々と描く作品はすごく好きだ。これは様々な事情を抱えて東海道を行き来する人たちを描いた12話の短編作品集。一話ずつは異なる話だけど、前話で登場した人が次の話でどこかで出てくると言った「あれ、誰だっけ?」探しの趣向。珍しくはない構成だけど、作家さんが違うとまた面白く読める。特に1話で登場した男とその背景が最終話で繋がるというのは何とも巧い。他にも犬が2話にまたがり登場するのは微笑ましい限り。2021/07/29
goro@80.7
42
最後まで聞けなかったNHKラジオのオーディオドラマの続きが知りたくて手にした一冊。東海道を舞台に12編の短編小説です。少しづつ重なる登場人物たち。誰かが誰かの人生の一場面に登場することは実際においても同じ事だが、それぞれの物語があってその一部なのだろう。「関越えの夜」「竹柱の先」「二寸の傷」が好きだな。全ては多生の縁かな。2018/10/27
ひさか
28
問題小説2009年2月号〜2010年1月号掲載に大幅な加筆修正を加え2014年2月徳間書店刊。2017年11月徳間文庫化。忠助の銭 、通夜の支度、やらずの雪、関越えの夜、死神の松、恵比寿のくれた嫁御寮、なるみ屋の客、池田村川留噺 、痛むか,与茂吉、竹柱の先、二寸の傷、床の椿、の東海道に関わる12の短編。東海道藤沢の宿の話から始まり、最後は京の姉小路の炭屋の話に。前話の登場人物が、後話にゆるく繋がる展開になっていて楽しい。いずれの話も面白い。2022/04/12
PAO
22
「うちは、ほんとに阿保や。なんでこんなにならへんと、決心がつかへんのやろ」…間違いを知りつつ、更に素知らぬ顔をしてしまい、その後ろめたさからまた過ちを犯してしまう…最後の『床の椿』は私自身も当てはまるので心に痛く、また救いにもなりました。商人、浪人、武家、僧、女郎、居酒屋…東海道を旅する者やそこに暮らす者の生きるそれぞれの喜怒哀楽に満ちた姿を澤田さんの筆は優しく厳しく描いていて江戸の東海道中にいる気分になります。登場人物が少しづつ重なり連綿と円環を描き、「禍福は糾える縄の如し」と唱えている様な作品でした。2021/11/07
ちろ
20
全十二話の連作短編集。澤田さんのデビュー作『孤鷹の天』以前に書かれた作品ですが、とても味わい深くて余韻が残る短編ぞろい。さりげなく登場していた人物が他のお話でクロスする様も見事。最終話を読み終えたら、第一話を読み返さずにはいられませんでした(忠助に涙‥)『腐れ梅』から受けた衝撃を、第四話『恵比寿のくれた嫁御寮』でまたくらいました。ブラック感溢れる描写もうまい!11月21日発売の新刊『火定』がとっても楽しみです。2017/11/08