内容説明
一度でいいから声に出して言いたかった、「彼、ヤンっていうの。毎日会ってるの」と…。無惨に引き裂かれたポーランド人青年との恋をとおして、戦争の真実を見つめる17歳の少女を描く、コルシュノフの代表作。名手が描く戦下の恋人たち。10代~。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nobuko Hashimoto
26
図書館の児童書室で目に入って。作家名やタイトルからして東欧系!?と手に取る。主人公は17歳のドイツ少女。ナチを信奉していたが、父たちの世代のみならず、同年代の幼馴染たちも出征していくなか、近所で強制労働させられているポーランド青年と恋に落ち、戦争や国政に疑問を抱くようになる。心身ともに子どもから大人へと変わらざるを得ない年頃を主人公にすることで、どう行動すべきかを考えさせるものになっている。主人公の恋人や支えてくれる周囲の人々の言葉や行動は、主人公や読者の指針になるよう注意深く言葉を選んで書かれている。2019/03/11
Cinejazz
23
第二次大戦下末期のドイツ。 <ドイツ少女同盟>で頭に叩き込まれる「ドイツ人は他の全ての民族に優っている」「一つの民族、一つの国家、一人の総統」の国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)を信奉してきた17歳の少女レギ-ネが、下等人種と蔑まれるポーランド人青年ヤンとの忍びあう恋をとおして、命あるものすべてを奪い去る無惨で悲惨な戦争の記憶を負の遺産として引継ぎ、反戦と平和への強いメッセ-ジがこもった、1979年出版のドイツ児童文学。▷2022年の現在、拭い去れない「人間の飽くなき野望」が、戦争を繰返している・・・。2022/06/08
ぱせり
21
こういう物語が生まれる国の深みに圧倒される。読みながら、よく似た過去を持つ私たちの悔いは誓いはどこかズレてはいなかっただろうか、と考えていた。私たちは自身を人類というより大きな集団の罪にすり替えて罪悪感を薄めてこなかったか。そもそも「私たち」という実態のない集団の一部であろうとし、ぬくぬくと暮らしてきたのは「ヤン以前」のレギーネに似た「私」だった。 2015/04/12
DEE
12
人目を避け夜中の逢瀬を繰り返すポーランド人のヤンとドイツ人の少女レギーナ。 戦時中は下等民族と位置付けられ、強制連行されていたポーランド人とのことが明るみに出れば、二人とも無事では済まされない。 若い二人の前にはまだ長い人生があって当然。でもヤンも含め戦場に駆り出された少年たちは、現実としての時間はあまりにも短い。そしてみんな生き急ぐ。 当たり前の生活や感情までもが戦争に色濃く染められていく恐ろしさ。希望を持ちつつ現実を受け入れていく悲しさ。やるせない気持ちでいっぱいになる。2019/09/10
ムーミン2号
11
人が人を愛するようになるのに、国の違い、民族の違いが疎外要因になるようなら、それは何か、どこかおかしいのだろう。ハイティーンの女の子レギーナが好きになったのはポーランド人のヤン。ナチスはポーランド人をドイツ人より劣った民族とみなし、紫の「P」の字が書かれた記章を服に縫い付けることを強要していた。だからレギーナがヤンと会うことはとっても危険。そして逮捕されてしまうが、運よく逃げることができ、潜んでいる農家の屋根裏でヤンを思い、戦争を考える経験を得る。優れた作品だと思う。2019/08/08