内容説明
無限、カオス、ゲーデルの不完全性定理。「不可能問題」に取り組む古今の数学者らの純粋な姿が、著者に確信的インスピレーションを与えた。「数学は心だ」。共通難問を追究する人類の数学的営みが脳を発達させ、記憶、思考・推論、感覚・知覚といった心の働きを生む。諸研究を用いて語られる「心」と「脳」の関係は、固いアタマに風穴を開けてくれる。世界最先端の数学者による思索の書。
目次
第1章 数学は心である
第2章 心が脳を表現する
第3章 複雑系としての脳
第4章 カオスの超越性と心
第5章 心は数式で書けるのか
第6章 記憶と時間と推論
著者等紹介
津田一郎[ツダイチロウ]
1953年、岡山県生まれ。数理科学者。専門は応用数学、計算論的神経科学、複雑系科学。大阪大学理学部物理学科卒業。京都大学大学院理学研究科物理学第一専攻博士課程修了。理学博士。北海道大学大学院理学研究院数学部門教授などを経て、現在、中部大学創発学術院院長・教授。「科学する精神」と「近代を超えること」を実践するために、最適の場として脳の解明を選んだ数学者。全日本スキー連盟公認クロスカントリースキー指導員・検定員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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禿童子
32
著者の口述を編集者が原稿にして、著者が内容を吟味する過程を経ているので門外漢にも分かりやすい(はず)。とはいえ、カオス理論をはじめ数学の専門的な概念・用語が頻出するので、読みやすいかは疑問。岡潔を筆頭に先人の数学者へのオマージュが「心はすべて数学である」という題名に込められていると感じた。著者の主張を、カオスアトラクターによる自己組織化が心を創発する、とまとめると乱暴かな。心は数式で書けるのかという問題提起がなされている。それが可能か不可能か、それとも可能とも不可能とも決定できないのかを証明せよ、と。2023/10/05
Haruki
5
自然主義的な脳科学の話ではなく、数学的にモデル構築を目指す時にある種人類に共通する理想的な認識や美のような心情が動機付けだ、という視点で「数学は心だ」という。また脳の数学的視点での探求を通して、脳の持つカオス的な特徴について、多面的に味わえるよう平易な言説を与える。外界と脳の対応関係(写像、階層性)、無限概念の扱い(フラクタル次元)、時間や空間の概念の裏打ちとして脳の信号処理のプロセスからのモデリング、など、キーワード的なエッセンスだけだが、脳の連想力を掻き立ててくれ、著者の目指す「心は数学だ」を感じる。2023/08/13