出版社内容情報
與那覇 潤[ヨナハ ジュン]
著・文・その他
内容説明
『東京物語』など、戦後に撮った家族映画の傑作で国際的に知られる監督・小津安二郎。しかし名作の狭間で創られた「失敗作」からはむしろ、徴兵され中国大陸で過酷な戦闘を体験した小津の、大日本帝国崩壊に寄せる懊悩が浮かび上がる。ミステリーのような謎解きの形で昭和と現在をつなぐ回路を見出し、映画評論と歴史学の融合を達成した著者の代表作に、関連する批評三点を増補した決定版。
目次
序章 ピースの欠けたパズル―『晩春』批判
第1章 帝国の残影―小津安二郎の『暗夜行路』
第2章 大陸の光景―沈黙する前線
第3章 暴力の痕跡―戦争の長い影
第4章 叛乱の季節―中国化と日本回帰
終章 呪わしき明治維新―『東京暮色』讃
著者等紹介
與那覇潤[ヨナハジュン]
評論家。1979年、神奈川県生まれ。2007年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。専門は日本近現代史。地方公立大学准教授として7年間教鞭をとった後、17年に病気離職。18年に『知性は死なない』(現在は文春文庫)で執筆活動を再開した。20年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環との共著、新潮選書)で小林秀雄賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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軍縮地球市民shinshin
14
単行本で既にかなり前に読了しているが、文庫化に際し増補の論文3本が収録されていることを知ったのでその部分だけ読んでみた。小津安二郎監督の映画を従軍経験の視点から分析してみたものでなかなか面白い。ただ歴史学の研究ではないような気がする。2022/12/13
kentaro mori
2
「日本的」と語られる小津映画にはなぜ戦争が描かれないのか。誰もが薄々と感じていたが問うことのできなかったその謎に迫る傑作。⚫︎私たちはなにか、とてつもなく大きな勘違いをしてきたのではないか。現実の婚姻が欠落した小津という映画作家が作為的に捻出した「問題にならない程生温かい」イメージに、現存する日本家族の「リアル」を勝手に読み込み、逆に本来彼こそが「リアル」に描出しうるはずであった戦場の光景の不在を、特に疑問に思うこともなく見過ごしてきた人々-それが戦後、この国で「日本人」を構成することになる。だとすれば、2024/01/11
chiro
1
気鋭の歴史学者のよる小津安二郎論。著者の歴史家としての視点からの小津評はもちろん大筋では他の映画評論家によって詳にされた小津像を大きく変えるものではないが時代背景をもとに撮られた作品群についての記述はむしろ当時の日本がどういう国柄であってそん中で小津の描くモチーフが当時の人々にどういった影響を与えたのかという時代考証の視点からも面白いものであった。2022/11/23
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