出版社内容情報
偶然出会ったわたしに、喜和子さんは「上野の図書館が主人公の小説を書いて」と頼むのだが……。ユーモアと愛しさあふれる歴史物語。
内容説明
上野公園のベンチで出会った喜和子さんが、作家のわたしに「図書館が主人公の小説」を書いて、と持ち掛けてきた。二人の穏やかな交流が始まり、やがて喜和子さんは終戦直後の上野での記憶を語るのだが…。日本初の国立図書館の物語と、戦後を生きた女性の物語が共鳴しながら紡がれる、紫式部文学賞受賞作。
著者等紹介
中島京子[ナカジマキョウコ]
1964年生まれ。作家。2003年田山花袋『蒲団』を下敷きにした書き下ろし小説『FUTON』でデビュー、野間文芸新人賞候補となる。2010年『小さいおうち』で直木賞を受賞し、2014年に山田洋次監督により、映画化。同年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞を受賞。2014年刊行の『かたづの!』で柴田錬三郎賞と河合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、2015年刊行の『長いお別れ』で中央公論文芸賞と日本医療小説大賞、2019年刊行の『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞、2021年刊行の『やさしい猫』で吉川英治文学賞を受賞。2022年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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rico
138
上野公園で出会った風変りな老婦人、喜和子さん。彼女が大切にしている帝国図書館とその記憶。そいて数10頁ごとにはさまれる、その帝国図書館自らが語っているらしき物語。かろやかに自由に生きているかに見えた喜和子さんの人生は、戦中戦後を生き抜いた多くの人々がそうであるように平穏とは程遠くて。帝国図書館の歴史もまた苦難に満ちている。それでも本との出会いに心震わせた多く人々の喜びは、時代の闇を吹き払う光であり力。喜和子さんもそうして背を押され走り始めた。物語は余韻を残し静かに閉じていく。もう少しこの夢の中にいようか。2022/07/09
エドワード
86
何とも重層的な物語だ。中島京子さんらしき「私」は、上野公園で白髪の女性・喜和子と出会う。彼女は私に「上野の図書館が主人公の小説を書いて欲しい」と話しかける。図書館。今、私たちの最も身近に存在する文化施設が日本に生まれたのは、わずか百年余り前だ。図書館の歴史は、日本の近代史そのものだ。そして、次第に明らかになっていく、終戦直前に生まれた喜和子の驚くほどドラマティックな人生。図書館を支えた多くの人々、喜和子をめぐる様々な人々。時空を越えて、二つの近代史が胸を打つ。真理が我らを自由にするところ。それが図書館。2022/05/20
dr2006
75
自分が生きてきた高々数十年では、図書館の様式と役割は確立されていて、変化があったとしてもせいぜいデジタル化のレベルだ。文明開化の明治初頭、日本は西洋文化の詰まった「図書館」という概念を輸入し具現化した。だが大正、昭和そして大戦と激動の近代史の中で、不理解な国による迫害をうける。あとがきにフィクションとあるが、実在の文豪が登場したり日本の不安定な史実が惜しみなく注入される為、ドキュメンタリー映画を観ているみたいで引き込まれた。図書館に対する新たな思いと夢を与えてくれた作品。何だか図書館に会いたくなったな。2025/02/15
佐島楓
74
ひと一人の人生と上野という土地、そして戦争、図書館の歴史と盛りだくさんな内容。女性が戦後を生き抜くだけでも大事業なのに、そのほかの取り上げられているテーマも重く、大きい。現在の国際子ども図書館のみならず、図書館の歴史に興味があるかた、戦後直後の混乱期について知りたい方に応えてくれると思う。文庫解説は京極夏彦氏。2022/05/26
優希
72
面白かったです。図書館メインの物語と思ったら家族の話がメインでしたけれども。図書館が恋をするという空気の物語が家族の話の中にちょこちょこ盛り込まれている作品でした。2つの物語が共鳴し合いながら紡がれる世界に引き込まれます。日本初の図書館と戦争を生き抜いた女性のパラレルワールドストーリーと言っても良いでしょう。2022/10/18