出版社内容情報
日常を一時停止させる小さな事件たち、しずかに痛む記憶、いつの間にか開く別世界の扉。短篇小説の名手がおくる18の至高のピース。
内容説明
わたしの一族の男たちの頭部には、代々、孔があいている。そしてその孔から一生に一度、激しい頭痛と共に様々な記憶がなだれ込む。脳内に映し出される、堤防の上を歩く男、逆光の中を走る三輪車、開かれなかったオリンピック―。1冊の写真集から着想を得た表題作ほか、物語が生まれる瞬間の光を閉じ込めたような18篇。
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964年、岐阜県生まれ。99年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年「熊の敷石」で芥川賞、03年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、04年同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、06年『河岸忘日抄』で読売文学賞小説賞、10年『正弦曲線』で同賞随筆・紀行賞、12年『なずな』で伊藤整文学賞、16年『その姿の消し方』で野間文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
83
久しぶりに堀江さんの文学作品で堪能しました。18編の短編が収められていますが一つ一つの作品が珠玉のような感じで印象に残ります。本当に読んでいて言葉をつむいでいるという感じがしてじっくりと読もうという気になります。表題作などは奇妙な感じやSF的な印象を与えるのですが本当にありそうな気がしてきます。至福の時間でした。2022/05/09
サンタマリア
48
これといったテーマのない短編集だが不思議と統一感があった。穏やかな海に月明かり一つ、クラゲが浮かんでる。そんなイメージを持った。『果樹園』『コルソ・プラーチド』『柳生但馬守宗矩』『ハントヘン』『十一月の肖像』が特に良かった。あとがきも面白かったのでこの人のエッセイを読んでみたい。2022/04/23
ワッピー
38
久々に堀江界に回帰。あいかわらずさらさらと流れ、染みこんでくる文章を堪能。人生の浮き沈みを自然に受け入れ、穏やかに揺蕩うような作品世界です。全体に漂う幻想感は以前にはなかったものなのか、それとも自分が気づかなかっただけなのだろうか?不思議な街への旅「ハントヘン」、怪異と歴史と粕汁の匂い立つ「あの辺り」、そして頭に正方形の穴のあいた一族の歴史を描いた表題作は幻想味が特に強いものの、やはり同じくつながった堀江界でした。「オクラ」「レタス」という名の犬を散歩させるペットシッター「果樹園」を読んで、ワッピーが ⇒2025/08/22
tsu55
27
堀江敏幸の短編・掌編を集めたもの。 あとがきによると、すべて依頼にこたえて執筆したものだそうだ。中島みゆきのCDを聞いて心に残った曲のタイトルで書くとか、読み終えたら注文住宅を建てたくなる作品をとか、無茶ぶりに近い依頼に対して、作家がどのように想像力を展開していくのかが分かって楽しめた。2022/08/07
ちぇけら
22
この短編集には生活の息遣いが刻まれている。いわゆる「主人公」が不在の物語のなかで、ドラマでは「通行人A」としてしか描かれないような人々の生活が眩しい。ドラマが倍速で見られ、ギターソロがスキップされる世界でこそ読まれるべき物語たち。「とるにたらないもの」は、こんなにも甘く愛おしいのだ。「結局のところ、大人はいつも、あいだにあるはずの大切なものを飛ばして、自分の関心事しか見ないのだ」。「コスパ」や「タイパ」は便利なのだが、それは天使であり悪魔だ。ぼくらは便利さという悪魔から、たくさんの色を損なわされている。2022/05/25
-
- 和書
- 江戸東京湾事典