内容説明
郊外生まれで公立育ちの女子大生・美咲と、都心生まれで国立大附属から東大に入ったつばさ。育った環境も考え方も異なる二人が出会い、恋におちた結果…東大生5人による強制わいせつ事件となり、被害者の美咲が勘違い女として世間から誹謗中傷される。現代社会に潜む病理を浮き彫りにした傑作。第32回柴田錬三郎賞受賞。
著者等紹介
姫野カオルコ[ヒメノカオルコ]
1958年、滋賀県甲賀市生まれ。青山学院大学文学部卒業。画廊事務などのアルバイトを経て、90年出版社に持ち込んだ『ひと呼んでミツコ』で単行本デビュー。2014年『昭和の犬』で直木賞、19年『彼女は頭が悪いから』で柴田錬三郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
570
【KU】気になっていた作品。冒頭で著者が述べている通り、焦点は性犯罪ではない。それよりももっと悪辣な、被害者の人としての尊厳を踏みにじった「東大生」たちの物語。「東大生」というのはあくまで記号である、ということ、なんならノンフィクションですらないということを、読者は理解していなければならない。犯人らの生い立ち、彼らを創った両親、そのまた両親、ひいては社会全体の価値観を描き出している。胸糞悪必至、そして「自分が被害者ならどう行動したか、犯人たちをどう批判したか」を読者に突きつける、筆者渾身の作品だ。2024/05/23
さてさて
229
『つばさは東大に合格した人間である。日本一入るのが難しい大学だ』。複雑な思いの先に事件に巻き込まれていく主人公の美咲を描いたこの作品。そこには実名で登場させるからこそ読者の心にリアルに響いてくる学歴社会の一面を見る物語が描かれていました。前半の雰囲気感が後半の物語に独特な深みを与えていくこの作品。数多く登場するツィッターのコメントにさまざまな思いが去来するこの作品。“東大生への偏見だ!vs 東大だから起きた事件だ”と煽るように書かれた本の帯の言葉を見事に著した姫野さんの鋭い切り口が光る物語だと思いました。2023/11/12
ノンケ女医長
140
だいぶ辛い読み物だった。序盤から、きっとこの作品は二度と読まないから、これを最後だと思ってきっちり読み終えようと、覚悟して臨んだ。異性間交流とは何か。優秀な血とは何か。人は何を思って恋愛し、子孫を後世に残すのか。きっと、子を産み育てる可能性のある方々は、幼少期から今作の中核を部分的とは言え学びながら成長するからきっと大丈夫なんだろうけど。私は違うので、心を深く抉られるような不快感しかなかった。親も親なら、子は子なのか。その血は、やっぱり私は欲しくない。2024/06/02
ゆいまある
114
私は日本中から金持ちの馬鹿息子が集まることで有名だった私立大医学部を卒業している。親睦を深める為に開催された飲み会で酔ってエッチなことを言ったら、その場にいた大馬鹿のスイッチが入ってしまい、身体を触られ、集団で服を脱がされそうになったことがある。挑発した私が悪い、何をされても文句は言えなかったと皆が言い、私もそのように27年間自分を責めて記憶を封印してきた。その記憶が浄化された。ありがとう姫野カオルコ。東大生わいせつ事件に着想を得た小説。社会的地位が低い者は侮辱して構わないという考えを強く批判している。2022/10/26
レモングラス
107
東京大学の男子学生5人が起こした事件をもとに書かれている。相手の気持ちを考えないどころか、人として到底ありえないし、ここまでひどいとは思わなかった。見下すという恐ろしい感情、育ってきた環境、驚愕の内容でした。東大ではない人間を馬鹿にしたい欲の怖さ、東大ではなくても、これを小さく小さくした感情が社会のあちらこちらでと思うと、社会が思った以上に病んできているのだと感じました。読友さんのレビューで知り、読みました。抑制の効いた筆致に突きつけられたもの、世の中がどんどん壊れていかないことを願うばかりです。2023/11/13