出版社内容情報
このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない――不穏な文章から始まる手記が導く先は、狂気か救済か。
内容説明
「先生に、私の全てを知ってもらいたいのです。私の内面に入れますか」心療内科を訪れた美しい女性、ゆかり。男は彼女の記憶に奇妙に欠けた部分があることに気付き、その原因を追い始める―。傷つき、損なわれたものを元に戻したいと思うことは冒涜なのか。Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した傑作長編小説。
著者等紹介
中村文則[ナカムラフミノリ]
1977年愛知県生まれ。福島大学卒業。2002年『銃』で新潮新人賞を受賞してデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸』で大江健三郎賞を受賞。12年『掏摸』の英訳が米紙ウォールストリートジャーナルの年間ベスト10小説に選ばれる。14年にはアメリカでDavid L.Goodis賞を受賞。16年『私の消滅』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。作品は世界各国で翻訳され、支持を集め続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
美紀ちゃん
146
闇の部分がうまく書かれていると思った。 悪意とかではなく、産まれた環境などからくる、自然に湧き上がる歪んだ気持ち。 洗脳、恐ろしい。 拷問だと思う。 自分の中の気持ち悪い部分が、妹を崖から落としたり、母親に怪我をさせたりした。 施設に送られたが、治っていない。 医師に引き取られ精神科医になるが向いていなかった。 そこで、ゆかりさんに出会う。 しかし、ゆかりさんは自殺してしまう。 人間とは何か? この世界とは何か? 電気治療でサイコパスが治るとは思わない。 壊れた人格に恐ろしさを感じた。2022/01/13
hit4papa
113
不幸な生い立ちの男の陰々滅々な手記です。読み進めるうちに主人公が誰なのか見失ってしまう「主人公の消滅」な作品。死んだ恋人のための復讐譚なのか、男のトラウマ話しなのか、さらっと読むとわけわからんになるので、精読すべし。結局何の話?って言うとネタバレになってしまいます。冒頭、手記を書く男の傍らにある怪しげなトランクの中が、気になりつつラストまで。純文学的な現実崩壊感が甚だしい上に、ミステリ的な展開で話が進む。どんよりと暗い印象が残るものの、物語の細部となると思い起こすのが困難です。ラストにタイトルの意味判明。2020/09/14
速読おやじ
91
久しぶりの中村文則。のっけから入れ替わりを示唆するような冒頭シーン。まるで映画を観ているかのように頁を捲る手が止まらない。精神科医による洗脳をリアリティたっぷりに描くのだが、それだけだと単なるホラーになってしまう。そこに潜む人の狂気が凄まじい。記憶を消去して、別の記憶を埋め込む。そんなストーリーもこれまで数多ある。使い古された道具なのだが、凄い衝撃だった。タイトルの私の消滅の裏側が凄い。2021/12/16
南雲吾朗
74
人間の内面を抉る様な文書。虚構と現実の境界が徐々に曖昧になっていくような読書感。中村文則氏は一貫して人間の悪意について書き続けている。今回は、平たく言えば復讐劇である。精神科医師が主人公である。催眠、刷り込み、これがどれほど現実の事なのか判断しかねるが、面白い。洗脳を繰り返され、読んでいくうちにどの人物が、誰なのか混乱してくる。読んでいる自分まで、登場人物と同じ思考に支配されてくる。昭和、平成に起こった猟奇的殺人事件の分析も絡んでくる。宮崎勤の分析も、まるで本当のように思えてくる。面白い本であった。2019/11/28
路地
70
中村さんの作品らしく性と死を絡めたミステリーな本作の主題は洗脳。場面展開が最小限で、もし映像化されたら面白い映画になりそう。洗脳により登場人物が入れ替わってしまうようなトリックに途中混乱させられつつも、少々おせっかいと言えそうなほどの丁寧な説明によりモヤモヤすることものなく読み終えることができた。後書きにある対になる作品について、ネットでは「あなたが消えた夜に」との情報があったので、さっそく読んでみようと思う。2022/08/25