出版社内容情報
太平洋戦争末期、「彼」は人間の愚かしさと優しさを見つめている――涙と生きる智恵が満ちた六つの物語。解説・吉川晃司。
浅田 次郎[アサダ ジロウ]
著・文・その他
内容説明
「けっして瞋るな。瞋れば命を失う」父の訓えを守り、檻の中で運命を受け入れて暮らす彼が、太平洋戦争下の過酷に苦しむ人間たちを前に掟を破る時―それぞれの哀切と尊厳が胸に迫る表題作ほか、昭和四十年の日帰りスキー旅行を描く「帰り道」、学徒将校が満洲で奇妙な軍人に出会う「流離人」など華と涙の王道六編。
著者等紹介
浅田次郎[アサダジロウ]
1951(昭和26)年、東京生まれ。著書に「地下鉄(メトロ)に乗って」(第16回吉川英治文学新人賞)、「鉄道員(ぽっぽや)」(第117回直木賞)、「壬生義士伝」(第13回柴田錬三郎賞)、「お腹召しませ」(第1回中央公論文芸賞、第10回司馬遼太郎賞)、「中原の虹」(第42回吉川英治文学賞)、「帰郷」(第43回大佛次郎賞)などがある。2015年、紫綬褒章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
134
人間に飼い馴らされる運命と折り合いを付け生きてきた老獪なライオンは人間の側の事情を理解し、気持ちも察する。餌が与えられなくても人間も戦争で我慢していてそれどころではないとわかっている。敵という名を付せば他人を簡単に殺すことができる人間を憂いてもいる。敵の砲撃で動物園の檻が破壊される前に殺処分命令が下り、農学校の実習でかわいがってきた動物を前に涙する若い兵隊。ライオンも子供の頃からの彼らを知っている。本望だと思うライオンは誇りから最後の咆哮をあげた。ライオンが指導者だったなら戦争は避けられたかもしれない。2018/12/17
佐々陽太朗(K.Tsubota)
107
泣かせ屋浅田の短編集とあって、大いに期待して読んだが、泣けるものあり、それほどでもないものもある。「獅子吼」「流離人(さすりびと)」の2篇は反戦もの。こういうものはいかにも新聞が褒めそうでいやだなあ。とはいえ、「獅子吼」は浅田氏らしさが出た良作。「うきよご」こういうややこしい小説は文学好きが褒めそうな話である。私としてはもっとシンプルに情に訴えるものが浅田氏らしいと思うのだが・・・「帰り道」におやっと思うような味わい深さがあって良かった。2019/02/11
となりのトウシロウ
83
6つのお話からなる短編集。戦争の愚かさ、そして人間の愚かさが戦時中の動物園のライオンの視点で描かれた表題作「獅子吼」、同じく終戦間近な満洲に転属する学徒将校が出会ったさすらう軍人の話「流離人」、昭和40年の日帰りバススキー旅行を描いた「帰り道」、学生運動華やかなりし東大を受験する私生児のお話「うきよご」、温泉宿で起こる事件を描いた「九泉閣へようこそ」、ラスベガスの場末のグロサリーショップで起こるとんでない出来事をユーモラスに描く「ブルー・ブルー・スカイ」。「獅子吼」と「帰り道」がオススメ。2020/08/14
おかむー
82
最近はテーマに沿ったものや連作短編集を読むことが多かったので、バラエティに富んだシンプルな短編集は却って新鮮だった。『よくできました』。二次大戦末期から戦後にかけての時代背景かと思いきやラストでは現代でアメリカが舞台だったり内容は様々。それでも浅田作品なだけに根底にあるのは人の情。戦争の理不尽さ、女男のもどかしい想い、妾の子の屈折した感情、大逆転した男と強盗の奇妙なひととき。飄々としたなかにも根底に漂うやるせなさが不思議な余韻を残す、報われるばかりではない結末もまた独特の味。2019/02/06
雲隠れひろ吉
63
浅田次郎先生は「鉄道員」から2作目になります。6つの短編集、戦争に関わるお話は興味深いです。今ではあまり使われない言葉や地名も出てくるので読むスピードは遅めでした。戦時中に動物園で飼われていた動物の扱いについてあまり多くは語られてないそうですが…『獅子吼』を読むと戦争をする人間の愚かさがより強く伝わるのではないでしょうか。<恨み憎しみのかけらもない相手に「敵」という名を付けて殺す戦争ではないか>『流離人』中佐は定数に見合うだけの役職がないため、さすらい中佐が何処かにいたのですね。短編集良かったです。 2019/02/07