出版社内容情報
幼時からエクゾティシズムの徒であった平城帝の子・高丘親王は一路、天竺を目指す。読売文学賞に輝いた怪奇と幻想のロマネスク。
内容説明
貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父平城帝の寵姫藤原薬子に天竺への夢を吹き込まれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していた。鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは。著者の遺作となった読売文学賞受賞作
著者等紹介
澁澤龍彦[シブサワタツヒコ]
昭和3(1928)年、東京に生れる。本名澁澤龍雄。東大仏文科卒業。マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介するかたわら多くのエッセイを発表、小説にも独自の世界を開いた。62年8月病没。56年「唐草物語」で泉鏡花文学賞、63年「高丘親王航海記」で読売文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
96
読売文学賞受賞作。面白かったです。怪奇と幻想が絡み合い、霧がかったような雰囲気が貫かれていました。不思議な世界を遍歴した親王の旅において考えたことが美しく昇華された物語になっていると思います。夢か現かの線引きが難しくはありますが、そういうことを考えずに物語の世界に浸るのが正解なのでしょう。2017/10/06
蒐
31
天竺を目指す高丘親王の航海は、幻想と奇怪に溢れている。時に妖しく時に蠱惑的で、過去も未来も超越したかのような旅路は、夢と現を行きつ戻りつ、心地よい。これは、自分の死期を悟った時にこそ、また読みたい物語だと思った。その時の私は出会えるだろうか?人語を解するジュゴンに。夢を食べるバクに。そしてカラヴィンカの美麗な鳴声に。不思議で美しい夢の数々はやがて死に至る病だと解っていても、その甘美さに身を委ねて死ねたらと願う。でも今はただ、そんな境地に辿り着いた親王のことを切なく偲ぶ。その生き方と心の有り様が愛しかった。2020/07/28
ASnowyHeron
28
異国情緒あふれる不思議な話は、なかなか想像力を掻き立てられるものがあった。高丘親王は日本にいて、親王の見ている夢の中の話であってもいい感じだ。作品内容とカバーイラストがミスマッチな感じがする。2017/12/11
阿部義彦
27
澁澤龍彦さんの小説は多分初読みだと思います、エッセイ評論の類に比べて、小説は本当に少ないのですが、まず凄い衝撃を受けてしまいました。先だって出たアンソロジーでこの中の二篇(儒艮と獏園)は読んでたけど新たに全編を読んで、圧倒的な構成力と豊穣イメージ、夢と現実の虚膜な佇まい等など、似たような小説を思い付かない位のオリジナリティーに圧倒されました。秋丸と春丸が入れ替わったり、薬子の存在感、パタリア・パタタ姫との邂逅など、遺作だけに自分の病身(喉に穴が空いて発声が困難)までを重ねあわせて天竺に旅立つみこ。驚愕2017/10/07
kieth文
23
親王の冒険心が素敵すぎて読み進む。 行ったこともない地への旅、生命尽きるとも天竺への飽くなき憧憬は止まない。恐怖心よりも探究心が勝つ。 旅のそこかしこに白昼夢の如く現れる薬子。妖艶なその描写が心いっぱいに広がった。"真珠"の章では、作者自身を重ねてしまった。天竺までは行けないけれど、高野山には行こうと思う。 フランス文学者の遺作。異国への冒険心とそこに漂う幻想的な世界観が素敵な物語です。コミカライズもされています。2024/08/31