出版社内容情報
緻密な構図や大胆な題材、新たな手法で京画壇を席巻した天才は、彼を憎み自らも絵師となった亡き妻の弟に悩まされながら描き続ける。
澤田 瞳子[サワダ トウコ]
内容説明
京は錦高倉市場の青物問屋枡源の主・源左衛門―伊藤若冲は、妻を亡くしてからひたすら絵に打ち込み、やがて独自の境地を極めた。若冲を姉の仇と憎み、贋作を描き続ける義弟・弁蔵との確執や、池大雅、与謝蕪村、円山応挙、谷文晁らとの交流、また当時の政治的背景から若冲の画業の秘密に迫る入魂の時代長篇。
著者等紹介
澤田瞳子[サワダトウコ]
1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院博士課程(前期)修了。時代小説のアンソロジー編纂などを行い、2010年、『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年、同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。2012年の『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、第32回新田次郎文学賞受賞。2016年には『若冲』で第5回歴史時代作家クラブ賞作品賞と、第9回親鸞賞を受賞、「この時代小説がすごい!」単行本部門第1位となり、直木賞の候補にもなった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
439
若冲の評伝のつもりで購入したが、エンターテインメント小説だった。主人公の若冲をはじめ池大雅、与謝蕪村、円山応挙、谷文晁など登場する絵師たちはいずれも実在の人物であるが、こんな風に必要以上に交錯するのは、かえって興味を減殺させかねない。ことに市川君圭にいたっては、史実からは甚だしく遠いようだ。若冲の内的な葛藤を描くためのフィクションなのだろうが、これでは芸術家である若冲の真の姿は現れてはこないように思われる。あらためて、芥川の描く「地獄変」の吉秀の鬼気迫る凄まじさに想いを馳せることに。2017/11/26
W-G
393
面白かった。この時代の絵師に詳しい方であれば、創話部分と通説を比較して作家の妙を味わったり、各有名絵師の背景や関係性を深く想像して、より楽しめるはず。この作品に於ける醍醐味は、生涯独身との説が有力な若沖に、お三輪という妻、そして弁蔵という義弟を掛け合わせ、まったくの架空設定から、今に残る作品群の誕生譚を紡ぎ出したことにある。しかし、なればこそ、若沖のお三輪への想いの形が、不器用ながらも真の愛情であったのか、後悔と憐憫の入り交じった自己陶酔的なものであったのか、寄って立つ位置はもう少し明確にして欲しかった。2020/08/07
パトラッシュ
174
2016年の展覧会で「動植綵絵」を初めて見て、これほど鮮烈な色彩を駆使する画家が日本にいたのかと圧倒された。学術的な伝記でなく小説ではあるが、あれほどの絵を生み出した若冲の生き様が伝わってくる。ただ、本作の若冲は人間関係の苦労を芸術に昇華させたものの、絵とは反対に地味で芸術的な思想を持たない普通の男でしかない。また視点の大部分が妹の志乃であり、画家としての若冲をとらえきれていない。むしろ義弟の弁蔵が復讐のため贋作絵師となった設定が面白く、彼を主人公に若冲に囚われた生涯を描いたら面白いドラマになったのでは。2021/01/16
hit4papa
139
奇想の画家 伊藤若冲の生涯を描いた芸道小説です。残された画業から若冲の懊悩を析出する著者の想像力が素晴らしい!戦国時代の権謀術数を描くより、ハードルは高めでしょうか。大店の放蕩息子でありながら、非凡な才能の持ち主である若冲。資産があってこそですが、現代ならば社会人失格の、まさに芸術の申し子でしょう。若冲の贋作作家とのひりつくような因縁話しを含めて、無駄のない展開も良いですね。まるで見てきたかのような臨場感があります。池大雅、与謝蕪村、谷文晁ら、有名どころも登場し、物語を盛り上げてくれます。2021/08/30
エドワード
115
伊藤若冲の名は最近まで知らなかった。昨年メアリー・カサット展へ行った時、向かいの京都市美術館に並ぶ行列に仰天したが、それが若冲展だった。江戸中期、高倉錦の青物問屋枡源の長男に生まれた彼は、家業を放って絵に没頭、その挙句妻は首を縊る。つくづく絵は因果なものと思う。死んだ妻の弟、市川君圭は若冲への憎悪に画業を貫き、異母妹のお志乃は数奇な縁をたどり生涯を若冲に寄り添う。綾なす三人の人生を通して描く、動植綵絵に代表される若冲絵画の異能と奇矯の所以。愛憎、恐怖、嫉妬。醜い感情の吐露が彼の芸術。恐れ入りました。2017/04/28
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