出版社内容情報
人が立ち入ることが出来ない高放射能汚染区域〈ゾーン〉。あの世とこの世がつながる場所で生きる者たちの命の輝きを描いた傑作中篇。
人間の命に対する心の持ち方を問う傑作中篇集
人が立ち入ることが出来ない高放射能汚染区域〈ゾーン〉。あの世とこの世がつながる場所で生きる者たちの命の輝きを描いた傑作中篇。
内容説明
「福島の今を見てみたい」作家の羽鳥よう子は警戒区域“ゾーン”に足を踏み入れた。この世とあの世の中間、宙づりになった場所に懐かしささえ覚えるが―(「ゾーンにて」)。癌に冒された青年が福島から避難した牛飼いの少女と出会い、自らの生と向き合う「牛の楽園」など、極限に生きる命の輝きを描く四篇。
著者等紹介
田口ランディ[タグチランディ]
1959年、東京生まれ。2000年に「コンセント」を発表、本格的な作家活動をはじめる。人間の心の問題をテーマにフィクション、ノンフィクションを往還する幅広い執筆活動を展開。2001年、「できればムカつかずに生きたい」で第一回婦人公論文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
154
2011.3.11東日本大震災からもうすぐ5年が経とうとしております。本作は被災地福島の警戒区域【ゾーン】と呼ばれるエリア近隣での現状を書いた作品です。とにかく、全体を通して重たいです。もちろん軽いワケがなく、田口ランディさんだからこそ、こういうスタイルで書きとおせるのかなと思われます。被爆、マイクロシーベルトなど、普段の生活には程遠い用語が次々と普通に繰り出され、被災地の‘今’を浮き彫りにしています。そんなエリアでも、人々が色んな想いを抱え、生きていこうとする姿勢に涙なくしては絶対に読めない作品でした。2016/02/14
佐島楓
49
福島原発事故を扱う小説の難しさを思う。小説家、表現者としての性とジレンマ。2016/03/27
TANGO
40
あれからの福島を描く中篇四篇。見られたくないところを見せられるような、痛いところをつかれるような、田口さんの描く物語は、いつも読むと胸が痛くなる。生と性と静と正と牲と誠と精。入れ違い擦れ違い行きずりあっていく人びと。痛みは他人には分からない。思いもまた同じ。それでも、毎日は続いていく。分かりあえなくても、分かち合えるものを見つけたとき、日常を愛せるのかもしれない。2016/11/21
taku
23
原発事故後の福島、警戒区域を題材にして、抑圧と解放、出会いと別れ、生と死を描いた四編。全編通して、人の感情や行動は理屈じゃ説明できないことがある、ということも表していると思った。震災、事故という難しい題材のせいか、消化不良な印象。でも『牛の楽園』はいい。どうしようもないやるせなさが漂うなか、がんに冒された男の独白はユニークだ。連作になっている『ゾーンにて』『海辺にて』は、主人公女性が受け付けられなくて少々気持ち悪い。2016/05/11
はなすけ
16
チェルノブイリの祈り」の絶望感に打ちのめされ、途中休憩して読んだ。決してフクシマの方がマシ、という話ではない。 チェルノブイリの恐怖が底なしすぎて、放射能に対する主人公羽鳥よう子(てか、ランディさんの)の客観的視点にすがりたくなった。 「ゾーンにて」で描かれる放射能は今や我々にとっても日常の一部となった。放射能とともに生きなければならない時代なのだということ、人生の終い方についてポツポツと思いをめぐらせる。不思議と、静謐な短編集なのである。2020/07/28