出版社内容情報
娘の緑子を連れて大阪から上京した姉の巻子は、豊胸手術に取り付かれている。2人を東京に迎えた狂おしい3日間。芥川賞受賞作。
内容説明
娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった、芥川賞受賞作。
著者等紹介
川上未映子[カワカミミエコ]
1976年、大阪府生まれ。「夢みる機械」(2004年)「頭の中と世界の結婚」(2005年)などのアルバムをビクターエンタテインメントより発表。2006年、随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』をヒヨコ舎より刊行。2007年、初めての中篇小説「わたくし率 イン 歯ー、または世界」が第137回芥川賞候補となる。同年、坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2008年、「乳と卵」が第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』が中原中也賞を受賞。2010年、長篇小説『ヘヴン』が芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
533
第138回(2007年下半期)芥川賞受賞作。1文の長い饒舌体の大阪弁で語られる独特な話法。井原西鶴の文体がまさにそうであった。選考委員の池澤夏樹が樋口一葉へのオマージュを指摘しているが、同様に西鶴へのそれでもあるだろう。タイトルにとられている、乳と卵は女としての生物的な性(セックス)のシンボルだろう。そして、それはセックスであると同時にジェンダーでもある。豊胸に拘泥する巻子と、子どもを産みたくないという緑子。「ほんまのことなんて、ないこともある」―最後は生そのものの根源的な意味にまで遡及することになる。2013/01/14
さてさて
360
『…胸だけがそんな?豊胸したら、巻ちゃんどうなる?どうなれる?』そんな疑問を姉の巻子にぶつける主人公の『わたし』。この作品では、そんな『わたし』が暮らす東京へと『豊胸手術』で訪れた姉の巻子と、それに付き添ってきた娘・緑子の姿が『わたし』の視点から描かれていました。ひたすらに読点で繋げていく、長い、極めて長い一文の連続に酔いそうにもなるこの作品。そんな表現を関西弁が絶妙に彩ってもいくこの作品。好き嫌いを通り越して読者を絡め取っていく独特な魅力を放つ物語に、純文学ならではの面白さを垣間見た、そんな作品でした。2024/02/15
青乃108号
355
これはまた凄いものを読んでしまった。最初は酷く戸惑うその文体も、慣れ親しんでしまえばリズミカルでコミカルでそれでいてシニカルで。この調子だったら一生読んでいられる心地よさ。何か哲学的な、含蓄のある作品の様ではあるが、本当のところ俺には良く判らん。ただその文章の、言葉の、文字の、羅列によって自然発生的に喚起される、めくるめく様なイメージに酔いしれ、踊らされ、笑わされ、唸らされ。願わくば女性に生まれ変わって一生読んで暮らしたい。残念ながら男にはこの本の本質は何回読んでも判らんだろうが、多分また読む。明日買う。2024/11/13
absinthe
320
読み始めるになかなか意味が解らんなぁ、この作家さんなかなか句読点打たへんな、文が長いな、と思いながら読み進め、これは女の体に起こる成長と加齢による変化の物語でそれを男性性を排除した3つの視点から書いているのやなぁと思いながら、消費期限の卵(たまご)を捨てようか悩む場面で、ははあこれは卵(らん)と卵(たまご)を掛けとんやなぁと感心し、クライマックスに至ってみたらいつの間にか面白くなってて、最後は通勤電車の中にも関わらずくすくす笑いながら、いい話読ませてもろたと感心したような感想。2020/10/21
風眠
311
改行無しでえんえんと大阪弁で綴られる文章は、最初読みにくいなと感じたが、慣れてくるとじかにおしゃべりを聞いているような不思議な感覚になる。まるで音楽のようで、とても気持ちがいい。女同士のあけすけな会話の中に見え隠れする、成熟したくない娘の葛藤と、若く魅力的であり続けたい母親の葛藤。そこにがんじからめになるあまりに、二人は意思疎通を半ば諦めてしまう。女として生きることの苦しさと悲しさ、胸の内に秘めたプライド、じたばたする女たちの本音が描かれた作品だった。好みは分かれそうだけど、私は好きだな。2012/02/07