内容説明
姉が壊れはじめたのは、幼い息子を亡くしてからだった。すべてが取り返しのつかない悲劇で幕を下ろしたあと、私は刑事を前に顛末を語りはじめる…。破滅の予兆をはらみながら静かに語られる一人の女性の悲劇。やがて明かされる衝撃の真相。人の心のもろさと悲しみを、名手が繊細に痛切に描き出した傑作。
著者等紹介
クック,トマス・H.[クック,トマスH.][Cook,Thomas H.]
アラバマ生まれ、ニューヨーク在住。「緋色の記憶」でアメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞を受賞
村松潔[ムラマツキヨシ]
1946年、東京生まれ。国際基督教大学卒業。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
miri
75
トマス・クックは一時期、集中して読んでいた時期があり、読み残していた本作は、その作風が懐かしい限り。回想と現実を繰り返し、終盤まで向かう陰鬱さと狂気が足元からゾクゾクと忍び寄ってくる。精神病に倒れた父、姉、弟、成長し家族を持ち生活していく中で、影を落とすのは亡くなった父。姉の子が命を落とした事件を契機に姉の様子が変わってくる。事故か事件なのか、数えきれない書物の引用が本作の中で不気味な色に変容している。最後まで読んだ時に、違和感はやはりそれだったのかと膝を打った。クックはやはり好きな作家だと認識。2020/03/08
yumiko
74
あの時自分はどうしたらよかったのか…取り返しのつかない出来事や途轍もない悲劇に出会ってしまった時、人はそう自問自答を繰り返すことだろう。350ページ近くをかけて、この小説はその繰り言を振り返る。何も出来なかった、何も知らなかったと気づくことになっても、止められない後悔。深い家族の愛の物語は、あまりにも切ない読後感を残す。大好きなクックも7冊目。毎度同じような言葉になるけれど、彼をミステリー作家の範疇に留めておくのは本当に勿体無い。もっと多くの人に読んでもらいたい作家の一人。2017/05/01
おうつき
20
幼い息子を事故で失い、少しずつ壊れていく姉。主人公の刑事への告白という形式で物語が綴られていく。家族、親子関係という誰でも共感しうるテーマをクックらしい重苦しい話に仕上げている。大きく動きがあるようなストーリーではなく、全体的に陰鬱な雰囲気が漂っている作品だが何故だかスラスラ読めてしまうのが特徴。サイコスリラーともまた違う、人間の心の闇を堪能できた。2019/08/03
うえぴー
20
どんな家族にも起こり得る悲劇と、その後に起きた悲劇。二人称の現在と、一人称の過去を巧みにカットバックで描く。現在の章で匂わされる3つの(あるいは4つの)死と、過去の章の食い違いが気になって、暗い暗い話なのにページをめくる手が止められない。先祖から受け継いでしまったかもしれない忌まわしい血。ゆっくり狂気に向かう精神。それを止めようとする家族の愛。読書中、なんども自分の人生を振りかえったり、登場人物の境遇に自分を当てはめてみたりしながら、心を大きく揺さぶられた。読書の醍醐味を存分に味わえる滋味に溢れた作品。2016/03/06
みやび
14
幼い息子を湖で亡くして、姉が壊れ始める。頭がいいだけに恐ろしい。始めは姉を助けたかった弟も、自分の娘が影響を受け始めると穏やかではいられない。狂った父に育てられた姉弟の重くて悲しいドラマでした。2019/06/17