内容説明
大工の大輔は子連れの美女、真実と同棲し、結婚を目指すのだが、そこに毎日熱帯魚ばかり見て過ごす引きこもり気味の義理の弟・光男までが加わることに。不思議な共同生活のなかで、ふたりの間には微妙な温度差が生じて…。ひりひりする恋を描く、とびっきりクールな青春小説。表題作の他「グリンピース」「突風」の二篇収録。
著者等紹介
吉田修一[ヨシダシュウイチ]
1968年生まれ。高校まで長崎で過ごし上京。法政大学経営学部卒業。97年、「最後の息子」で第84回文学界新人賞を受賞。同作が第117回芥川賞候補作となる。2002年、『パレード』で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
431
表題作の中篇と他に2つの短篇を収録。「熱帯魚」では、大工の大輔と幼い子連れの真美(結婚はしていない)、居候の光男が同居するという、やや奇妙な形態での生活が描かれる。大輔と真美の間に性はあるが、はたして愛はあるのだろうか。大輔は、いとも簡単に注文主の娘の律子(中学生。もちろん大輔はそれを知っている)と関係を結んでしまうし、火事を起こしてしまった失態の後も反省らしきものが見えない。なんだか、万事が刹那的で行き当たりばったりのように見える。これがあるいは愛の実相を語る現代のリアルなのだろうか。2019/12/10
かみぶくろ
139
吉田修一さんの小説がなぜこんなに大好きかって言えば、ストーリー云々よりも、ちょっとした描写やエピソードや心の揺らぎが、ものすごく豊饒だからだと思う。生活の断片を掬い取るその繊細な感性にいつも惚れ惚れしてしまう。「人間」とはなにかを語るには、直接的な形容詞や言葉による説明では不十分で、物語こそが最も有用なツールだと、改めて感じた。2017/02/11
yoshida
132
かれこれ20年くらい前の吉田修一さんの作品。とても不穏で不条理。吉田修一さんの作品を初めて読んだのは「パレード」。その不穏さと不条理さ、淡々と進む日常の描写に懐かしさを覚える。尖っているなと思う。短編三篇どれもそう。好みは別れると思う。だが、私はこの不穏さと不条理さは好き。そんな吉田修一さんが「国宝」や「悪人」を描くとは、当時は思いもよらなかった。作品に戻れば、鴉を捕まえたり、大工が台風の現場でボヤを起こしたりと不条理。繰り返し読めば、メタファーも理解出来るかも知れない。読みやすいので一気に読了しました。2020/08/18
ケイ
105
これを読む前に読んだ吉田さんの小説についての感想で「性的興奮を起こすものと同じような、何か気持ちを掻き立てるもの」と書いたのだが、この小説に出てくる男の一人が同じようなことをほかの登場人物に尋ねていた。正確に引用しないが、「言葉で勃起することはあるのか」というようなこと。もちろんそれは比喩であって、それがテーマなのかもしれない。暇があれば本をくる私のような者は、本から求めるものがある。ミーハーで少しバカなんだな、熱があって、それを持てあましてたんだな、うまく成長しちゃったな…小説の中の一人に話しかける。2023/09/07
まさきち
93
純文学の中編3話を集めた一冊。枯れてそういった話に想像力を働かせる柔軟さを失ったからか、主人公達のヌメッとした気持ち悪さばかりに目が行き、いまいち楽しめなかった一冊でした。2024/06/28