内容説明
十六世紀末、朝鮮の役で薩摩軍により日本へ拉致された数十人の朝鮮の民があった。以来四百年、やみがたい望郷の念を抱きながら異国薩摩の地に生き続けた子孫たちの痛哭の詩「故郷忘じがたく候」。他、明治初年に少数で奥州に遠征した官軍の悲惨な結末を描く「斬殺」、細川ガラシャの薄幸の生涯「胡桃に酒」を収録。
著者等紹介
司馬遼太郎[シバリョウタロウ]
大正12(1923)年、大阪市に生れる。大阪外国語学校蒙古語科卒業。昭和35年、「梟の城」で第42回直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池寛賞受賞。47年、「世に棲む日日」を中心にした作家活動で吉川英治文学賞受賞。51年、日本芸術院恩賜賞受賞。56年、日本芸術院会員。57年、「ひとびとの跫音」で読売文学賞受賞。58年、「歴史小説の革新」についての功績で朝日賞受賞。59年、「街道をゆく“南蛮のみち1”」で日本文学大賞受賞。62年、「ロシアについて」で読売文学賞受賞。63年、「韃靼疾風録」で大仏次郎賞受賞。平成3年、文化功労者。平成5年、文化勲章受章。平成8(1996)年没
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感想・レビュー
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むーちゃん
138
なかなか面白かった 薩摩もわが故郷の佐賀 有田・伊万里も似たようなものだったのかも。 斬殺はやはり幕末は優秀な人ほど早くなくなったというつけが。 最後の細川ガラシャのところは嫉妬はほどほどにてと秀吉の好色すぎるところが印象に残りすぎるほど残った笑2019/01/18
とん大西
124
三編とも70頁ほどのボリューム。にもかかわらずどの話も読応えがあって満足(司馬作品がホームという感覚なので大体こういう感想になりがち)。表題の「故郷忘じがたく候」は小説かと思いきや紀行エッセイ。秀吉の朝鮮侵攻の際、捕らえられ薩摩で生きることを余儀なくされた朝鮮の民たち。窯を守り続けた400年。為政者、国家は変わり続けた。日本で生まれた彼らの子や孫は日本人であった。だが、受け継がれた血脈と朝鮮の姓。歴史と地続きの彼ら、今。アイデンティティを穏やかに問うような司馬氏と14代沈寿官氏の邂逅にロマンを感じます。2020/08/20
新地学@児童書病発動中
111
「故郷忘れじがたく候」では、朝鮮の役で日本に連れてこられた人々の生き様を描いている。自分の住んでいる鹿児島のことが、司馬さん独特の詩的な筆致で描かれて、こそばゆい気持ちになった。歴史に翻弄された人々にそそぐ司馬さんの眼差しには、いつも暖かいものがある。「斬殺」では、幕末の東北の複雑な政治状況が分かる作品。世良修蔵と呼ばれる官軍の男性の哀れな末路が印象に残る。世良も時代のうねりに呑みこまれた人物として、司馬さんは自分の筆で記録したかったのだろうか。2017/03/03
優希
85
3つの中篇からなる作品集ですが、取り合わせが不思議な印象を持ちました。物語として刺さるものの、波乱万丈の展開があるわけではないので、面白味には若干欠けるものがあると思います。細川ガラシャを主人公にした『胡桃に酒』が好みでした。2018/04/29
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
84
中編が3作。表題作「故郷忘れじがたく候」は秀吉の朝鮮出兵により薩摩に連行され帰化した陶工達の末裔の物語。370年の時を経て初めて先祖の土地を訪れた時の気持ちは例えようもないものであろう。歴史小説というよりは「街道を行く」のような雰囲気であった。「斬殺」は会津征伐に向かった長州藩士世羅の物語。錦の御旗があるとはいえわずか200名の寄せ集め兵士で会津征伐に向かうという滑稽さ。新明治政府はかくも脆弱な政府であったのだ。「胡桃に酒」は細川忠興とその妻たま(ガラシャ)。嫉妬深い夫を持つ絶世の美女の悲劇。★★★+2017/01/15
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