内容説明
「ダフネ」に隠れ潜んでいたイエズス会士・カスパル神父と遭遇したロベルトは、その島が日付変更線上にあることを知る。入り江を泳ぎ渡れば、一日前の日に行ける。あのユダヤだってキリストを救い出せるのだ―バロックの迷宮で記号の錬金術師エーコが奏でる壮麗な幻想曲を聴きながら、時空を超え、いざ『前日島』への旅を始めん。
著者等紹介
エーコ,ウンベルト[エーコ,ウンベルト][Eco,Umberto]
1932年北イタリア・アレッサンドリアに生れる。ボローニャ大学教授(記号論)。80年、初の小説「薔薇の名前」が世界的なベストセラーになり、「前日島」は20世紀最後の作品として話題をよぶ
藤村昌昭[フジムラマサアキ]
昭和22(1947)年大阪生れ。大阪外国語大学教授(南欧地域文化)。元NHKラジオ「イタリア語講座」講師
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感想・レビュー
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syaori
71
下巻では、眼前の島へ上陸するための試みが失敗し死を待つだけの主人公の心情が、架空の兄を主人公とした小説と省察の形で展開されます。それは人々が彼に教示した「みな根拠が異なる」世界の見方―聖と俗、科学と信仰、理性と情熱―が衝突し融合していて、彼の時代を体現するよう。そんなふうに自身の死と生の意義を考える彼はその秘密を解くことなく、彼の恋や信仰やその他様々な「シンボル」となった島と鳩を追って消えてゆくことになりますが、しかしその意義は彼が全てを賭けて目指したそのシンボルの豊かさにあったのではないかと思いました。2023/11/17
マウリツィウス
15
【エーコ孤高島】『前日島』、エーコの「薔薇」表象は全ての幕開けであり終焉でもある。ホルヘ・ルイス・ボルヘスより継がれた意思と信念と思想、ジョイス連鎖はここでも紡がれ永続する。振子とは前兆を意味した。まず秘められた究極の謎はこの鍵に求められた結晶だろう。『フィネガンズ・ウェイク』解読が再開発され完結したこの時代における前衛手法の意味は削がれ、物語意味は二人の超詩人を取除いた。文法書とは原典と忠義を必要とした点で改善と刷新とを成立、異端異教偶像とは敵視すべき対象と再自覚した無人島は最高位の否定と合理の弁証法。2013/05/26
roughfractus02
10
主人公と語り手の饒舌は装飾過多を増大させる。そして神父が「考える石」から<神>-全世界を語るバロックの哲学者(ライプニッツ)のモナドロジーを紹介し、「石」と「意志」の言葉遊び-「石っている」-のような文法を踏み越えた可能世界を展開して退場すると、言葉と意味の対応から成るこの現実も、記号の無限の組み合わせのバージョンの一つに格下げされる。日付変更線上のダフネから前日島に渡ろうとする主人公は時間を遡るのでない。一つの時間に沿う一つの世界なる考えに逆行するのだ。オレンジの鳩が飛ぶと世界は別バージョンに移行する。2019/02/04
中島直人
9
結論。わけわからん…やたらに冗長過ぎで、装飾超過多過ぎ。私には消化できない世界だった。2016/06/30
Foufou
5
教養小説にして冒険活劇だった上巻に比して、下巻は「いざ前日島へ!」と勇んだはいいものの我らが主人公がカナヅチであるばかりに物語はたちまち停滞、無人と思われたダフネ号に潜んでいた老神父とともに前日へ超えゆかんと試みつつ、宇宙、科学、神、地獄、原子、そして愛について、まさしく「いびつな真珠=バロック」的知性が脱線に脱線を重ねながら延々と展開、その収拾のつかなさに耐える読者に最後の最後で主人公=エーコはうっちゃりを食らわせるはずだしそのようなそぶりを何度となく見せつけているのだからと期待していると、↓2019/05/04