内容説明
「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。
著者等紹介
車谷長吉[クルマタニチョウキツ]
昭和20(1945)年7月、兵庫県飾磨市(現・姫路市)に生れる。昭和43年春、慶応義塾大学独文科卒。広告代理店などに勤務しながら小説を書く。その後、東京を離れ、関西で下足番、料理人となって働く。平成4年に出版された初めての作品集「鹽壺の匙」(新潮社)で芸術選奨文部大臣新人賞、三島由紀夫賞を受賞。平成10年、「赤目四十八滝心中未遂」で第119回直木賞を受賞。その他、小説集に「漂流物」「白痴群」(ともに新潮社)、「金輪際」(文芸春秋)、随筆集に「業柱抱き」(新潮社)がある
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鉄之助
383
車谷ワールド初体験! 大満足だった。長吉を「ちょうきつ」と読む名前からして、独特の世界。働き奴(はたらきど)、迦陵頻伽(かりょうびんが)、蛇(くちなわ)、併し(しかし)、大物(だいもつ)、これまであまり目にしたことのない文字の読み方に、浸りながら読んだ。匂いと湿度感が癖になりそう。2024/01/18
ヴェネツィア
307
私(生島)の一人称語りで、一見したところは私小説にも見えるが、車谷長吉の現代小説の中では最も物語的な要素の多いものであり、作家自身の体験が元になってはいるが、小説の全体はフィクションである。終局は標題の赤目四十八滝で迎えるが、物語の主要な場は尼崎である。私は関西の出身だが、これまで尼崎には縁がなかったので現実の場としてのリアリティは判断の外にあるのだが、なにか時代錯誤を起こしそうな空間である。とても、1996年の作品とは思えない。町の全体に漂うデカダンな雰囲気は、まるで太宰が生きた時代であるかのようだ。⇒2025/01/26
おしゃべりメガネ
204
直木賞受賞作品で本作が初読みの車谷さん作品です。特に大きな盛り上がりはないと思いますが、さすがは直木賞作品とも言うべき'深み'を感じる描写でした。まともな仕事もない脱サラの「生島」は住んでるアパートで、ひたすらモツ肉の串を刺し続けてます。そんなアパートには色々とワケありな住人達がそれぞれ住んでおり、中でも不思議な雰囲気の美女「アヤ」に、どんどん惹かれていきます。そんな「生島」と「アヤ」の危ういやりとりが、とても芸術的に綴られ、魅了されます。決して明るい話とは言い難い作品ですが、さすが直木賞と納得できます。2019/02/02
遥かなる想い
166
直木賞受賞作というので、購入して読んだ。読みながら、その底辺に生きる人たちの情念のようなものに実は戸惑っていた。2010/08/01
hiro
156
車谷さんが亡くなったという新聞記事を読んで、2年以上積読本となっていた直木賞受賞作のこの本を読んでみた。昭和53年の尼ヶ崎(尼)を舞台にした私小説。性的な描写を含め、最近は使われない古風言葉、漢字、言い回しと関西弁、そしてアパートでモツを串に刺している、中流の生活を嫌う主人公や‘この町の底に棲息する’登場人物たちのすべてに今の時代とのギャップを感じ、昭和53年よりもさらに古い昭和の時代を感じた。そして私小説のためだろうか、今まで読んだ直木賞受賞作にはなかった読書感だったが、決して嫌な読書感ではなかった。 2015/05/27