内容説明
殺人の咎を逃れるため、修道院兼教護院に身を寄せている青年・朧。暴力と性の衝動の中で、自分の倫理を構築しようとする朧は、ある日施設を辞めた元修道士の赤羽をひそかに訪ねる。朧の傍らには妊娠したシスターの姿が…。芥川賞を受賞した『ゲルマニウムの夜』の続編、『王国記』シリーズ第二弾の待望の文庫化。
著者等紹介
花村万月[ハナムラマンゲツ]
1955年東京生まれ。中学を卒業後、オートバイで日本全国を放浪し、様々な職業に就く。北海道をツーリングした折りの紀行文が旅雑誌に採用され原稿料を手にしたのをきっかけに、小説を書きはじめる。1989年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞を受賞、若者の峻烈な生命力と疾走感を描いて、多くの読者を得る。1998年『皆月』で第19回吉川英治文学新人賞、『ゲルマニウムの夜』(『王国記』シリーズ第一弾)で第119回芥川賞を受賞
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感想・レビュー
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まあちゃん
29
キリスト教徒には、人格者や純粋な信者もいる。逆に強欲で自分勝手な人もいる。前者は純粋に福音を実践し、良い人になりたいと願う。後者は地獄に落ちないことを望み、死後の保険として教会に通う。どちらにもなれない人は、結果的に教会を去る。若い時は奇跡や霊的体験により入信しても、時が経つと魔法から覚め、偽善、欺瞞、欠陥が鼻につきはじめる。赤羽、朧、宇川は、案外まともな感覚を持ってる。ラスコーリニコフみたいで頭でっかちな朧が、宇川君を助けてつらい作業を手伝ったりするのは、いわゆる悔悛の始まりだろうか。文学の秀作と思う。2014/08/08
渋
11
血と汚物、残酷で汚い。強烈にそう感じさせる描写と比喩。「なんでもわかっちゃってます、でもまた考えます、迷います、諦めます」的な思考回路をますます育んでいっている朧。こういう自己完結型主人公が出てくる小説、結構好み。案外短い期間の話なんだと思っていたら、まだまだ続きがあったのか王国記。続編にも手を伸ばす気満々。赤羽先生みたいな悩み方をする中年サラリーマンって割といるんじゃないかな、と思ってみたり。2014/01/28
yashi_masa
7
『ゲルマニウムの夜』の続編です。前作を読んだ時はハードな物語だな、という印象でしたが、今作も相変わらずハードな物語でした。キリストや聖書には詳しくないけれど、それでも分かる主人公の朧の背神に信じて従うだけでなく疑念を持つべきで、何か信じる行為に対して奴隷になってはならないという強い意志を感じました。赤羽修道士視点の物語も同じ臭いを感じました。結局、人は何かを拠り所とするだけでは本当に生きていると実感する事は出来ず、絶えず自分自身が何であるか思考し続ける事に見出せるのだと感じました。刺激的な物語でした。2017/02/17
ごんちゃん
5
シリーズ2作目。修道院の牧場を主な舞台に、宗教やら性やら暴力やら、人間の持つ原始的な側面を描いてます。残虐シーン多数で、インパクトを狙いながらの深みのある表現は流石だな、思いますね。前作は芥川賞を獲っただけあって、やや文章が堅かったけど、続編は少し柔らかくなった? 「本を所有するというのは、数ある快感のうちでも、もっとも心地よいものだからだよ」というセリフをこのコミュの方に捧げます。 2019/04/05
Thinline
4
人間の極端な欲望を無垢と称して極端に表現している。ついていけないが、読んでしまうのは、怖いもの見たさに近い感じ。2016/05/15