内容説明
肉親が他界するたびに四国巡りをする。そんな著者が壮絶な兄の最期に立ち会い、波立つ心を抱えて訪れた三度目の四国への旅は…。薬王寺の境内に立つ地蔵菩薩に兄の顔が重なり、三十六番札所の青龍寺で祈る幼女の姿に「無心」の境地をみる。愛する者の死をどう受け入れるか、いかに祈るのか。足取りを記した四国巡礼地図付き。
目次
顔施
童眼
老い歌
なにも願わない手を合わせる
安らかなり
古い時計
犬影
色食是空
死蝶
菜の花電車
人生のオウンゴール
水に還
春の猫
まなざしの聖杯
富士を見た人
垂乳根
東京物語
刃
無音
夢の技法
営みの花
春花考
著者等紹介
藤原新也[フジワラシンヤ]
1944年、福岡県生まれ。東京芸術大学油画科中退。第3回木村伊兵衛賞、第23回毎日芸術賞などを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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遊々亭おさる
13
ワンフレーズで心を動かされる言葉がある。この詩情豊かに綴られる身辺雑記が単行本として世に出た年、僕の気持ちの何かに引っ掛かり、時折思い出されてきた『なにも願わない 手を合わせる』。無心の境地にはなれない凡百の魂が現世利益のための祈りを乗り越えて祈り本来の行為を会得する術は…。世界中の人々がこの祈りを意識すれば戦争なんてこの世から無くなるんじゃないかとジョン・レノンのごとき安直な夢想も感じてみたりする。三輪車に乗る幼女と現世の役割を全うし静かに退場するがごときの老婆の後ろ姿は輪廻転生を想像させられて面白い。2015/11/22
ATS
8
★★★はじめて読んだ著者の作品であるが、個人的に好きな文体、雰囲気であった。深夜特急のような旅行記、やや不思議な余韻のある奇妙な味、畏怖が根底に流れている幻想文学などが、絶妙に絡み合ったような印象を持った。筆者の描写もお洒落で、たとえば『黄色い輝きは、瞬く間にすれ違い、過去の方に向かって走る』(P121)。電車に乗っていて流れていく景色を過去に向かって走るなんてなかなか粋な書き方ではなかろうか。やや懐古主義的なところが節々に見られるが、まぁ随筆なんでそれはそれで一興かなと思う。2018/08/26
はりねずみ
6
彼の紡ぐ日本語がしっくりきて、そして美しかった。彼の彩った生命の世界が、水面に反射する細やかな日の瞬きのように輝いて胸に残り、生きている事への喜びを教えてくれた。読後のこの爽やかで落ち着いた気持ちはずっと持ち続けたい。兄の死を契機に四国巡礼へ詣でた筆者は、その地で回想も含め様々な死のにおいを嗅ぎ、生のにおいを嗅ぐ。最も印象的だったのは蝶のエピソードと彫刻家の方の話そして老い歌。死に対峙しなくては生を感じられないというのは悲しむべき事だが、無機的な社会で暮らす私達は死に対峙すべきなのだと思う。再読決定!2013/08/19
シュエパイ
5
どんな罪を犯したか判らないけど、と。静かに行き交い、すれ違い、わかれていく人々。苦悶のうちに死んだであろう兄を想い、四国・お遍路さんをめぐる。 苦しんで、死んだのか。苦しかったから、死んだのか。お姉ちゃん、どっちだったんだろうなぁ2011/08/03
HIRO1970
4
☆☆☆2012/03/25