内容説明
食べることは色っぽい。味わうという言葉も、口に合わないという言い方も、考えてみれば男と女の味がする…。湯豆腐、苺ジャム、蕎麦、桃、とろろ芋、お汁粉、煮凝、ビスケット、無花果、おでん。食べもののある風景からたちのぼる、遠い日の女たちの記憶。ひたむきで、みだらで、どこか切ない19の掌篇集。
著者等紹介
久世光彦[クゼテルヒコ]
昭和10(1953)年、東京生まれ。東京大学文学部美学科卒業後、東京放送に入社。「七人の孫」「時間ですよ」「ムー一族」「寺内貫太郎一家」等のヒットドラマを手がけ、54年退社。カノックスを設立後、演出家、映画監督、作詞家として活躍。平成4年、「女正月」他の演出で芸術選奨文部大臣賞受賞。5年、「蝶とヒットラー」で第3回ドゥマゴ文学賞受賞。6年、「一九三四年冬―乱歩」で第7回山本周五郎賞受賞。9年、「聖なる春」で芸術選奨文部大臣賞受賞。13年、「蕭々館日録」で第29回泉鏡花文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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❁かな❁
176
食べることは色っぽい。五感を使い美味しく味わうところが性的なことと同じだからだろうか。昭和の香りが色濃く何とも艶っぽく男と女が描かれる。ジャム、桃、へちまなど色んな食べ物と共に語られるお話。19編あるが年上の女性が沢山出てくる。みだらな関係を静かに少し妖しく遠い日のこととして語られ、懐かしくもあり幻想的でもあり、エロティシズムに溢れている。どの女性も時に可愛く、時に大人っぽく儚げで魅力的。「二階の女」「悦っちゃんのジャム」「桃狂い」「とろろ芋」「粒あん漉しあん」「靴が鳴る」が印象的。昭和の色香漂う短編集。2018/02/10
じいじ
91
『飲食男女』。何とも色っぽい味わいのある表題だ。著者曰く〈いんしょく・だんじょ〉では、あまりにも素っ気ないので〈おんじき・なんにょ〉と読むことにした…。「食べること、飲むことは、色の道に通じる」―湯豆腐、蕎麦、桃、おでん…食べ物とともに女が語られる。昭和の香り漂うなか、ちょっと怖い話、寂しく切なくなる話…19の掌篇集。どれも艶っぽいお話で面白いです。細い路地を入ったモルタル・アパートの二階に住む女の想い出を切々と語った【二階の女】が印象的です。わずか6頁に凝縮された、哀愁漂う情景描写がいいですね。2016/07/22
五右衛門
44
読了。初めての作家さんでした。何だか妖しい女性と食物の短編集でした。羨ましいと言うかいい時代だったんだなと思いもしますがそれよりも登場する女性が大人?だなぁと、というか男性そのものを軽く飲み込んでいる様が凄いなぁと思いました。それが昔の女性の強さ、広さ儚さだったんでしょうね。男って奴はいつまでも甘えていたいんですよね。2018/09/14
まーしゃ
38
昭和の香りと食べ物の話… そんな短編集だと思って手にする。懐かしいと言うか… 自分が年上の女性に淡い気持ちを寄せていた時代、思春期に感じていたなんとも言えぬ知識と経験のないあの頃の感覚を思い出し中々の風情の中読み進める。大文豪の名前、その文豪のエピソードにも触れている。気になって北原白秋を調べてみたりとかなり趣もあった。美味しい店があるから…なんて言うのは辞めて今度からは『上手い◯◯を食わせる店があるから…』なんて粋に東京を歩いてみたくなった。これは男性にはあるあるな感じだと思いながらも面白かった。2018/02/23
つね
34
子供の頃、親と居間で何気なく見ていた向田ドラマ・・・なんとなく著者はテレビ業界のイメージがぼんやりとあっただけ。鬼才と言われていたのですね。男・女・食べる(何を?)。とんでもないシチュエーションを悪びれる様子もなく紡ぎだされた文章は艶やかで、男同士で想い出話を聞かせてもらったよう。出てくる男は妻子持ちであったり、これは自伝なのか小説なのか、自伝ならかなりヤバイお人だな、などと余計な心配をしてしまった。少年時代の「写真の女」「山茱萸の秋」「ゼームス館の犬」は、思春期の男の子 特有の懐かしい想いを感じた。2018/03/20