出版社内容情報
旅をかさね、人と世界を透徹した目で見すえ、しなやかな文体で描き続ける著者の一九八九年から九五年までの秀作をあつめた短編集
内容説明
夢の中で、十二年に一度の沖縄・久高島の祭イザイホーに、巫女として参加している自分を見つける「眠る女」。亡くなった夫の骨を砕き海に撤く妻を、遠くからそっと見守る夫がやさしく語りかける「骨は珊瑚、眼は真珠」。さわやかに、そして心に深く届く言葉が紡ぎだす九つのものがたりを収録した秀作短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
46
短編九編。沖縄古歌謡、スペイン民話、SFなど趣向と技巧を凝らした、これぞ短編小説と言う感じの作品が粒ぞろいで楽しめた。そして嬉しかったのはバラエティに富みながら、通底するものが感じ取れたこと。一つは、雪や草原や孤島や山や海や鳥が重要な役割を果たしていることだが、むしろ作家の現代の生に対する叫びが聞こえてきたこと。それは声高ではない。比較的"死"のテーマが多いが、明るく爽やかに描かれる。だけど、漂っているのは、表面的には幸福だけど、ちょっと違うのではないかと言う違和感であり、それが今の私には大きく響く。2015/09/30
アナクマ
33
『アステロイド観測隊』南洋の小さな島国で小惑星の観測を決行。繊細な観測を邪魔する「大統領官邸の噴水の照明」を阻止せよ。果たして結末は? 当事者の助教授が惑星気象学の講義中に回想するという体裁がミソで、ある種の教養主義的な空気が思い出のおかしみを増幅させる。◉「学生というのは学ぶべき対象を理解する前に教師の意図の方を理解しようとする」「具体例によってしか話せないことも世の中にはある」「学問と社会の関係が…いきなり試されるということをよく承知して…準備していただきたい」◉「社会を離れた科学というものはない」→2024/09/19
ほほほ
21
池澤夏樹さんの初期作品。短編9つ。インタビューやラジオをなどを聞いて、なんでもわかりやすく話すことのできる方なんだなぁと思っていましたが、小説もそうでした。読みやすかったです。単純に物語の行方を楽しみながらも、人間や社会について知っておいた方がいいこと、気付いておいた方がいいことを教わっているようで読み応えがありました。大満足。「眠る女」「眠る人々」「贈り物」「鮎」、表題作の「骨は珊瑚、眼は真珠」がお気に入り。「眠る女」は特に女性におすすめ。民芸っぽい表紙もこの本の雰囲気に合っていて良かったです。2015/07/24
松本直哉
18
表題作は死者から生者へ語りかける二人称の話法、シェイクスピアの「テンペスト」を下敷きにした美しい墓場としての海の描写という点で忘れがたい。たしかに法律上はどうあれ、死後は自然に還って転生するのが本来だし、いわゆる墓地というものがいかに反自然であるかにも思い至る。墓も遺書も憎むと歌ったのはボードレールだったか。「眠る女」の、ボストンでの退屈な日常と夢の中の久高島の神秘的な祭の交替する描写のうちにしだいに夢のほうがリアルになっていく過程もふしぎな読後感でした。2017/01/18
Fondsaule
13
★★★★☆「眠る女」「アステロイド観測隊」「パーティー」「最後の一羽」「贈り物」「鮎」「北への旅」「骨は珊瑚、眼は真珠」「眠る人々」の9編。 「アステロイド観測隊」がいいね。南の島に研究者が訪れるというパターン。大好きだ。 あと「眠る人々」もよかった。『車にばかり乗っていると足の筋肉が退化するだろう。苦労して歩かないと足が使えなくなる。同じように今のようなことばかりしていると、不幸に耐える筋肉がどんどん退化する』鍛える必要があるってことか?2018/03/26