内容説明
「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。
著者等紹介
小川洋子[オガワヨウコ]
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業。88年、「揚羽蝶が壊れる時」で第7回海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」で第104回芥川賞を受賞。2004年、『博士の愛した数式』が第55回読売文学賞、第1回本屋大賞を受賞。同年、『ブラフマンの埋葬』で第32回泉鏡花文学賞を受賞。2006年、『ミーナの行進』で第42回谷崎潤一郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ろくせい@やまもとかねよし
528
穏やかだが堂々とした「生」を表現。山崎さんの解説「『仕方ない事情』を仕方がないと受け止める潔さ」がうまく物語をまとめる。「生」は64マス上の6種類32コマを移動させるチェス。多くのゲームは勝敗を名誉やお金に結びつける。しかし、小川さんはゲームの結果ではなく、その過程こそに人間とは何かのすべてが暗示されると表す。答えのない畏怖されるゲーム過程を追い求める好奇こそ、思考する人間の「生」を紡ぐに相応しいと。その継承は記号の羅列に過ぎない。しかし、それは言葉を超えた情緒を醸す。単純故に尊い「生」を清く伝播すると。2020/03/08
ミカママ
512
冒頭の「かつて確かに存在した象」のくだりにノックアウトされた。チェスのルールはわからないながらも、年始に観た「クイーンズギャンビット」を思いながら半分くらい読んだところで、脱落。情況に入り込めないのでいったん本を閉じる。読了ではないが自分の記録のために。2021/04/08
zero1
427
数学同様、チェスも小説になる。何年か前、私はチェスに熱中。対局者がおらずソフトが相手。その際、「この局面は前にあったか」気になり検索。1929年の棋譜を発見。その瞬間、私は大昔の棋士と繋がった。チェスの世界は奥が深い。しかも日本の将棋と違い世界各国に棋士がいる。文化が違い、言葉が通じなくても盤面で理解し合える。チェスとは、将棋より狭い8×8で64マスの海に潜り冒険する競技。駒が強力なので展開が将棋より劇的。盤の下で対局するリトル・アリョーヒンを描いた静謐で詩的な小川の世界。10年本屋大賞5位。2019/09/16
さてさて
422
『頭脳の良し悪しだけで勝敗が決まるものではない』という『チェス』に光があてられるこの作品。そんな作品では小川さんのさまざまな工夫によって『チェス』の知識が全くない読者でも夢中になれる物語が描かれていました。『チェス盤の前では誰だって、自分を誤魔化せません』という言葉の意味を物語の中に感じ入るこの作品。『チェスは、人間とは何かを暗示する鏡なんだ』という言葉に、『チェス』の奥深さを感じるこの作品。哀しくもあたたかい思いが残るその結末に、『チェス』を深く愛した『彼』の存在がふっと浮かび上がる、そんな作品でした。2023/01/07
yu
385
綺麗に並べられた文字の波が、少しずつ少しずつ押し寄せてくる感じがする一冊。 大きくなりすぎてデパートの屋上から降りられなくなった像インディラ、壁の隙間に挟まって出られなくなったミイラ、太りすぎてバスの中で亡くなったマスター。「大きくなること」に恐怖を抱き、11歳のまま成長がとまってしまった僕。少年はやがて、盤下にもぐり、人形を操ってチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に踏み出した少年の生涯に、最後は涙が止まらなかった。 最初はなんのこっちゃ?と思ったタイトル『猫を抱いて像と泳ぐ』。秀逸! 2013/05/12