内容説明
「動くな」。終電帰りに寄ったコンビニで遭遇したピストル強盗は、尻ポケットから赤ちゃんの玩具、ガラガラを落として去った。事件の背後に都会人の孤独な人間模様を浮かび上がらせた表題作、タクシーの女性ドライバーが遠大な殺人計画を語る「十年計画」など、街の片隅、日常に潜むよりすぐりのミステリー七篇を収録。
著者等紹介
宮部みゆき[ミヤベミユキ]
昭和35(1960)年生れ、東京・深川育ち。法律事務所勤務を経て「我らが隣人の犯罪」でオール読物推理小説新人賞を受賞しデビュー。以降「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、「本所深川ふしぎ草紙」で吉川英治文学新人賞、「火車」で山本周五郎賞、「蒲生邸事件」で日本SF大賞を受賞。さらに「理由」で第120回直木賞を受賞する
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
283
宮部みゆきさんの短編集。日常にある闇や事件を7編集録。最も心に残った作品は「8月の雪」。中学生の充は粗暴な同級生のいじめの余波で交通事故に逢う。結果、充は片足を失い家に引きこもる。祖父が死去するが足を気にする充は葬儀にも参列できない。そんななか、充は祖父が20歳の時に書いた遺書を見つける。充は祖父の友人から、祖父が2.26事件に加わり、死を決意した事を知る。祖父の覚悟を知り、充は外に向かう決意をする。彼の再び立ち上がる姿が素晴らしい。人間の心の闇や明かりを紡ぐ宮部みゆきさんの手腕に引き込まれる短編集です。2016/10/09
zero1
217
過去の作品を再読することで、作家の足跡を追う。本書には7つの短編が収録。「八月の雪」は不公平な社会を知り失意の充が主人公。二・二六事件に参加していた祖父の過去を知ることで何かが動き出す。思い出すのがSF大作「蒲生邸事件」。唐突な終りのようだが、「書かない表現」というものが小説にはある。私は宮部の選択を支持する。「生者の特権」も登場人物にスイッチが入る点で似ている。しかも学校の怪談をミックスしている点がいかにも宮部。いじめなど厳しい現実を描きながら、人の善なる部分を信じている。だから多くの読者に支持される。2018/12/11
夢追人009
187
重い主題を深刻にではなくポジティヴに語る人生の物語集。『人質カノン』コンビニがもっと人の情が通う場所になればいいのに。『十年計画』短期でなく長期計画にして本当に良かった。『過去のない手帳』もう一度人生に立ち向かうきっかけをくれた手帳に感謝しなくちゃ。『八月の雪』おじいちゃんが孫を見て天国で微笑んでいるかも知れませんね。『過ぎたこと』♪今がとてもしあわせなら寄らずにほしい。『生者の特権』「あたし、生きてるんだ」これからもずっと。『漏れる心』幸せの指標はお金だけじゃない。浅井夫人はそっとしといてあげましょう。2018/06/14
kaizen@名古屋de朝活読書会
174
短編集。解説西上心太。人質カノン ,十年計画,過去のない手帳,八月の雪 ,過ぎたこと,生者の特権,漏れる心。いじめに対して一緒に行動することが、自分自身の殻を破ることになるという「生者の特権」は出色。「十年計画」も綿密だからこそ、生きていく妙も産まれる。同じ文脈かも。 過去のない手帖、八月の雪は、こだわりが、新たな地道な展開の糸口という意味で同じ文脈かも。 全体として暗そうな話題を取り上げているが、一歩づつ生きていく気遣いを感じることができる。2013/04/30
クリンクリン
141
解説にもあるとおり宮部さんの作品の中では地味な存在だろう。決して悪い作品ではなく好短篇集なのだが、長篇の大作に挟まれているため目立たなくなっているのは確かだろう。また、この作品が明るいイメージを持っていないのも一因であると考えられる。七篇の短篇集のうち実に三篇がいじめをテーマにしているからである。しかし、救いのない話は一篇としてないのだ。いやな読後感はなく、晴れやかな気分にすらなる好篇ばかりである。宮部さんといえば社会派の大作に有名作が多いが、短篇でも優れた作品は多い。是非多くの方に一読を薦めたい。2016/03/13