内容説明
おすずという許嫁がありながら、子持ちの後家と深みにはまり、呉服太物店を勘当された総領息子の信太郎。その後おすずは賊に辱められ、自害して果てた。「一度だけ」とおすずが身を預けてきたあのとき、願いをきいてあげていたら…後悔の念を抱きながら、信太郎は賊を追う―。平成14年度中山義秀文学賞受賞作。
著者等紹介
杉本章子[スギモトアキコ]
昭和28(1953)年、福岡県に生れる。ノートルダム清心女子大国文科卒。54年、「男の軌跡」で第4回歴史文学賞佳作に入賞。その後も緻密な考証に基づいた時代小説を発表し、平成元年、「東京新大橋雨中図」で第100回直木賞を受賞。「信太郎人情始末帖」シリーズ第1弾の『おすず』で平成14年度中山義秀文学賞を受賞した
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
99
味わい深い連作時代小説だった。自分のいいなずけを死なせてしまった信太郎が主人公。彼は悔恨の思いを抱えながら、江戸の犯罪の謎を解こうとする。信太郎は芝居小屋で働いている。この設定が巧い。芝居小屋はいろいろな人物が出入りする場所なので、犯罪者との接点ができる。小屋の華やかでありながら、どこか切ない雰囲気もさりげなく描かれ、江戸情緒を感じた。苦しみながら、江戸の街を彷徨う信太郎の姿は読み手の心に強く残る。意外なことから子供の誘拐のからくりに信太郎が気づく、「かくし子」が私のベスト。2018/01/08
タツ フカガワ
41
信太郎は呉服太物店美濃屋の総領息子で、同業の槌屋幸七の娘おすずを嫁にもらうはずだった。が、吉原引手茶屋の女将と深間になり婚儀は破談。家からは勘当され、芝居小屋で働くなか、槌屋が盗賊に襲われ、おすずが自殺したことを知る。この盗賊たちをはじめ、信太郎の探索と推理力が事件解決へ導く全5話の連作。6年ぶりの再読でしたが、物語をほとんど覚えていないことで楽しめました。江戸の風情を豊かに描く端正な文章、信太郎や御家人貞五郎の造形のうまさ、やっぱりこのシリーズ面白い。2025/05/09
norstrilia
37
大矢さんの書評がきっかけで手に取った一冊。 すごく良い読み心地。それを生み出しているのは、著者の言葉のチョイス。解説でも触れられているけれど、耳慣れない(読み慣れない?)言葉を実に自然に使っていて、江戸時代にするりと誘い込まれる。居心地の良い作品、という不思議な印象だった。大矢さんの言う通り、広義のミステリとしても楽しめた。2015/08/30
ドナルド@灯れ松明の火
29
杉本さんの作品中の江戸庶民の会話・言葉遣いはリアルで惚れ惚れする。成程こういう言い回しなのか、とか駄洒落とか生き生きとしていて引き込まれてしまう。最初から重荷を背負って、内証勘当を受け、河原崎座で働きながら謎解きをする信太郎。この信太郎シリーズはしっかり読もう。宇江佐さんの少し後に同じく乳がんで亡くなってしまって、もう作品が書かれないことは凄く残念である。お薦め2016/01/20
ぶんぶん
26
【図書館】「春告げ鳥」を読んで次の本を探している時、読友さんから教わった一冊。 勘当を受けて年上の女性と暮らしている信太郎が主人公、信太郎には忘れられない一人の女性が・・・江戸情緒、溢れる言葉の一つ一つに何とも言えない雰囲気が漂う。 心の闇を抱える信太郎の進むべき道は、「おぬい」との生活、元吉との友情、貞五郎の手助け、信太郎の周りで運命が回っていく。 そして、「おすず」の面影がいつも追いて来る・・・信太郎の明日、もう少し読んで見ようか。 ただ、随所に現れる江戸言葉がしんどいのは確かである。2019/04/23