内容説明
子供時代から寄席通いにはまり、作品の中で芸について触れたくだりが面白い夏目漱石。学業そっちのけで連日連夜、娘義太夫の追っかけをした志賀直哉。名だたる文豪たちは寄席や芸事と、意外な程縁が深い。圧倒的な数の文学作品を切り口に、寄席と文人の関わりを浮かび上がらせ芸の奥深さに迫る傑作コラム集。
目次
1 文人たちの寄席(谷崎潤一郎;折口信夫;芥川龍之介;高見順;久保田万太郎 ほか)
2 名作のなかの芸能(織田作之助『夫婦善哉』;伊藤整『誘惑』;五木寛之『銃声の夏』;尾崎士郎『人生劇場』;源氏鶏太『三等重役』 ほか)
著者等紹介
矢野誠一[ヤノセイイチ]
昭和10(1935)年、東京生れ。麻布学園、文化学院に学ぶ。演劇・演芸評論家、コラムニストとして活躍
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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kokada_jnet
47
矢野誠一については、最初に読んだ『エノケン・ロッパの時代』(岩波新書)が非常に印象が悪く、その後、まったく読まずにきたが。数年前に読んだ『戸板康二の歳月』(ちくま文庫)が素晴らしい名著で、認識を改めた。思うに、岩波新書というレーベルが、この人にはあわなかったのだな。この本も、文人たちの寄席経験と、小説に描かれた芸能をあつかったユニークな物。いままでの矢野誠一を読まなかった読書人生は、大いに損をしていた。これから、じっくりと読んでいきたい。2021/08/26
みや
3
95年から97年の間に国立劇場発行の小冊子のために書かれた表題のエッセイと、77年にスポーツ紙に連載された「名作のなかの藝能」をまとめた文庫。後者は読書案内としても有用。明治から昭和初期にかけて、寄席で繰り広げられた落語、講談、浪花節、奇術などの芸能と文人たちとの濃密な関わりが興味深い。女義太夫に熱を上げる様は、いわば現代の「ヲタ」。富国強兵に反する存在として、不良性を共有していた時代背景も見逃せない。とまれ、戦前までの寄席文化の豊かさには瞠目する。2019/09/04
志村真幸
2
前半は「文人たちの寄席」として谷崎潤一郎、折口信夫、芥川龍之介、高見順、久保田万太郎、吉井勇ら25人の文人と寄席との関わりがとりあげられる。たとえば谷崎なら、上方で文楽や大阪落語になかなかなじめなかったこと。芥川なら三遊亭円朝の息子が芥川家に出入りしていたことや速記本で講談に親しんでいたことなど。 後半は「名作のなかの藝能」として織田作之助『夫婦善哉』、伊藤整『誘惑』、五木寛之『銃声の夏』、尾崎士郎『人生劇場』など32作品を扱う。作品のなかの寄席のシーンが拾い上げられている。2019/08/26
オサム
0
予想以上に興味深く、面白かった。やはり文人の感性の幅広さには恐れ入るし、本物の芸人には強く憧れる。漱石が「三四郎」の中で柳家小さんを褒めていたのは覚えていたが、三遊亭円遊との比較に及んでいたのは記憶になかった。私が感じているちあきなおみ(小さん)と美空ひばり(円遊)との違いに酷似しており、深く感じ入ってしまった。2021/05/03
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