内容説明
軍資金は薩軍七十万に対し官軍四千二百万円。兵力は終には四百対五万。西郷隆盛はなぜ、滅亡が明らかな西南戦争に立ったのか?何に対して戦おうとしたのか?「城山」、「抜刀隊」、わらべ唄…。いまなお日本の近代に対峙する「西郷という思想」の意味が、嫋々たる歌の調べにのせて明らかにされる。
目次
1 全的滅亡の曲譜
2 慓悍無謀
3 白菊の歌
4 ふるさとの駅
5 背面軍進撃
6 「抜刀隊」
7 山中彷徨
8 精神気魄
9 西郷星
10 幻の進軍
著者等紹介
江藤淳[エトウジュン]
昭和8(1933)年、東京に生れる。慶応義塾大学文学部英文学科卒業。在学中、「夏目漱石」でデビュー。主要な著作として「小林秀雄」(新潮社文学賞受賞)「アメリカと私」「成熟と喪失」「一族再会」「漱石とその時代 第一部、第二部」(菊池寛賞・野間文芸賞受賞)「落葉の掃き寄せ 一九四六年憲法―その拘束」「自由と禁忌」「近代以前」「言葉と沈黙」「漱石論集」「漱石とその時代 第三部、第四部、第五部」「幼年時代」(絶筆)など多数。平成11年、逝去
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感想・レビュー
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nakagawa
7
負けると分かっていても戦わないといけない時がある。それが西南戦争であり、日露戦争であり、日米開戦だった。日露戦争は奇跡的に勝利はしたが。三島由紀夫の自決にもその思想は現れているのではないだろうか。西南戦争は、明らかに負けると分かっていており西郷隆盛は明らかに分かっており、それは私でもわかる。江藤淳氏は、西郷隆盛の思想ほど大きな影響を与えたものはないという。西郷隆盛はいずれ西洋に呑み込まれて大日本帝国はいずれ崩壊することを予期していたのかもしれない。2017/09/09
うえ
4
「それにしても、帝国陸軍は、何故このように複雑な(抜刀隊)の歌を分列行進曲の旋律に採用したのだろうか…「西洋」化しているはずの官軍が、却って薩軍の「抜刀隊」に歩兵の理想を見出だそうとするという倒錯が生じる…洋式帝国陸軍の理想は、ほかならぬ攘夷の軍隊「陸軍大将西郷隆盛」を総帥に戴くもう一つの軍隊である…しかし、正規軍である帝国陸軍、つまりは官軍が、反逆者の軍隊である薩軍を理想とするとはいかなる次第か…二・二六事件は、ほとんど西郷挙兵のその瞬間から、国軍の構造のなかに潜伏していたのではないか」2015/09/13
Hironobu Takegama
3
読了。西郷さんの人生を"西南戦争"の時期にフォーカスした作品。唄や資料を使って評論家らしく仕上げた作品と言える。個人的には西南戦争についてのブラッシュアップになり、興味深く読んだ。 2018/02/18
kazy0021
0
江藤淳氏が南洲翁に寄せる想いを西南の役の時系列に沿って書き綴ったエッセイ。南洲翁とそれに従った士官・兵たちの姿が、当時の電文や紀伝を引用することで生々しく描かれており、その姿を通じて、死して何かを残さんがために立ったという江藤氏の「西南の役」像が浮かび上がってくる。2017/12/22
riow1983
0
歌によって西郷隆盛という思想を読み解く。その思想とは大いなる失敗=死への情熱である。城山で自刃する西郷は日本がいずれ西洋の普遍に敗れて崩壊するであろうことを見越していたに違いないと作者は推察する。すなわちエートス無き近代化への痛烈なる批判が西郷隆盛であったと。2012/02/14