出版社内容情報
肩を骨折しながらも礼拝のオルガンを弾き続けて母は倒れた。闘病から死までの母を描き、その魂のありかを求める芥川賞受賞作と、心温く家族を見つめる四つの作品
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
170
第72回(1974年)芥川賞。 昭和の母の物語である。 歳をとっても 元気な母は 溌剌として、 気持ち良い。 作者の 母に対する 敬愛の念が、丹念に 描かれており、身内の人々も あたたかく、 心和む作品だった。2017/09/27
ヴェネツィア
83
1974年下半期芥川賞受賞作。タイトルからは、まったく内容の想像がつかないが、語り手の「私」(おそらくは、ほぼ等身大に作者自身に重なると思われるが)の母の終末期を克明に描いたもの。小説としての完成度は低くはないが、芥川賞に相応しかったかどうかは疑問。つまり、斬新さに欠けるのだ。それ以前にも候補になったらしいのだが、どちらかといえば直木賞向きではなかったか。描写は丁寧だし、病者(まして母)を前にしての煩悶もよくわかる。しかし、所詮は裕福な境遇の中での死と、その周縁の者との甘やかな葛藤の物語だ。2014/02/04
YO)))
19
筆者である「私」の母の最期の日々を、やや執拗ともみえる丁寧さで描いた「土の器」が特に良い。妙に聞き分けの良いことを言う母を、既に達観しているのだと強いて思い込もうとする私、自分の知っている母はいなくなってしまったと嘆く兄、嫂と私にしか知覚できない母の「笑い」… ある揺らぎの中で果無く持続する人という存在と、それに相対した他者のその存在の引き受け方が、それぞれの切なさの中に語られている。 全てが自分の思い込みかもしれない中で、それでも何かを受け取りまた手渡すこともあるのだという、祈りのようなもの。2019/08/13
はるたろうQQ
3
庄野潤三によると、父の生涯を書いた「音楽入門」には弱さがあり、母の死を書いた「土の器」には力があるという。これは、作者の本性である「てれや」の有無によるのではないかと「ロミオの父」を読んで思った。小説を書くには「喜びも悲しみも真正面から身にひっかぶろうとする」必要があるのではないか。ユーモアに逃げてはいけない。表題作「土の器」はこの土の器の中に神から与えられた宝が又神の元へと帰っていく様子を素焼きの器となるまで描いていく。「もう振返っても母はどこにもいなかった。」で終わる最後が印象的。2018/09/17
Kento Isikumada
3
一話目が面白くなくて読むのやめようかなー思ってたら二話目かつ表題作かつ芥川賞作『土の器』良かった。癌になるも弱音を吐かないクリスチャンの母。死を看取る者、耐える者、耐えられなくなった時に…澄ました顔して感想書いてますがボロ泣きですわ。2014/07/26